辺境の砦奪還戦①
レブリック子爵領軍との合同の主要メンバーでの軍議が終了し解散となった後、冒険者パーティ《鋭き切先》のリーダー、エルザは自分達に充てがわれた天幕へと帰ってきた。
「あ、エルザさん」
「おお、帰ったか」
「ただいま」
そこで待っていた仲間たちに軍議で決まった作戦を伝える。
「4人だけで襲撃か」
「き、危険じゃないんですか?」
少し考え込むシシリーとエルザを心配するマルティ。
エルザはマルティを安心させるように肩を叩いた。
「大丈夫だ。他の3人、レブリック子爵とドレッグ軍団長、それにエリー殿も皆、神器使いだ。その上、敵軍の戦力はそこまで高くない」
「そうね。それに万が一劣勢になってもエルザの神器なら撤退することは難しくはないでしょ?」
「ああ、敵の戦力が想定以上だった場合は撤退して良いと言われたしな」
「そうですか……それなら……」
マルティも納得したように頷く。
エルザの神器は窮地を脱する場合や、ギリギリの状況を打開することに適した能力を持っている。
仲間達の納得はその力を信用してのものだろう。
「それにしても会長さんまで襲撃に加わるなんて意外ですね」
「そうね。確かに剣も魔法も達人級の腕前だけど、神器はあの物資を収納する本なのよね?
とても戦闘向きの神器だとは思えないわ」
「レブリック子爵様やレブリック子爵領軍の上層部の人も、何処か会長さんに気を使っているみたいでしたし、何かあるんですかね?」
マルティとリサが襲撃にエリーが参加すると聞いて不思議そうにしていた。
確かにエルザもあのエリーという商会長には何かあるとは思っている。
ハルドリア王国の王太子や近衛騎士の話やサージャス王国の神器使いの話など、妙に詳しかった。
情報通の商人と言えば、そう思えなくはないが、王太子や近衛騎士の話をしている時はごく僅かではあるが殺気が漏れていた。
何か個人的な関係があるのかも知れない。
確かに気にはなるが、エルザはそれを口にすることは無かった。
何故なら…………。
「2人とも、その辺にしておけ」
普段は無口なサリナが、エリーの素性を予想していたマルティとリサを嗜める。
「あまり詮索するな」
「…………そうね」
「すみません、つい」
マルティとリサは軽率な詮索を反省する。
「サリナの言う通りだな。
余計なことを知れば巻き込まれる。
長く冒険者を続けたければ鈍感になることだ」
「“好奇心とは死神の名前である”ってことですよね。気を付けます」
「玉言よね。反省するわ」
マルティとリサは冒険者の間で語られる格言を口にする。
この世の中には知らない方が良いことも多いのだ。
◇◆☆◆◇
私は自分の天幕で装備を確認していた。
防刃と対魔力を付与したローブに左腕に小手、腰にはフリューゲルを帯び、ローブの内側にナイフと短剣を複数仕込んでおく。
今回は隠密行動ではなく、派手に攻め込み殲滅する予定なので身軽さや隠密性ではなく、火力と防御力を優先した装備だ。
「行ってくるわ」
「御武運をお祈りしております」
「ミレイもね」
私が襲撃を掛ける間、レブリック子爵領軍と共に義勇軍はブロッケン砦を包囲する予定だ。
その時、義勇軍の指揮はミレイに任せている。
私はミレイに軽く手を挙げてから天幕を出た。
既に陽は傾き始めており、後1時間もすれば襲撃予定の時間になる。
私はエルザと合流してブロッケン砦の北側へと移動した。
近場の岩に身を隠して時間が来るのを待つ。
「もうすぐ時間ね」
「ああ、私があの物見塔の辺り、エリー殿が駐屯地の辺りだったな」
エルザがブロッケン砦を見て最終確認をする。
「ええ、潜入した後は派手に暴れて、可能な限り敵戦力をすり潰すわ」
「うむ。捕虜などは必要ないのだな?」
「要らないわ。もし偉そうな奴が居たら可能であれば生捕にしても良いけど、無理なら殺して構わない。
それと、非戦闘員はなるべく殺さないで」
「わかっている。
もしかしたら拐われた村人が雑用をさせられているかも知れないしな」
サージャス王国軍に襲われた村人の中には拐われた者も居た。
そう言った者達が雑用や慰安婦として囚われているかも知れない。
実情は奴隷と変わらない扱いをされているが、一応賃金は出ており、形としては戦地での雇用となる。
戦時国際法の抜け道ね。
「時間だ」
「行きましょう」
私とエルザは自分達の担当の場所を目指して駆け出したのだった。
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