辺境の軍政官
村人達によって殺された兵士共の死体を始末した私達は、村のことを村長達に任せて野営地へと戻ってきていた。
本部である天幕に主要メンバーを集めた私は、手早く今後の指示を出す。
「取り敢えず、村の警備に3人送るわ。
防衛は考えなくて良いから、もし襲撃されたら村人の命を守りながら遅滞戦闘を心がけて、空に魔法を打ち上げたらすぐに救援に向かうから」
「わかった。俺達の傭兵団から人を出そう」
「お願いね。その他の人員は交代で休息、レブリック子爵との連絡が取れ次第次の行動に移るわ」
そして見張りの順番や周囲の哨戒などを決めると今日は解散となった。
そして2日、周囲を警戒しつつ、3回ほどサージャス王国軍の斥候部隊を壊滅させた頃だ。
レブリック子爵領軍が居ると思われる方に送り出した走竜傭兵団の斥候達が帰ってきた。
レブリック子爵家の家紋が入った軽鎧を身に着けた男を一緒に連れている。
「エリーの姉御、ただいま戻りましたぜ」
「レブリック子爵領軍との接触に成功しました。こちらはレブリック子爵領軍のイグル氏です」
走竜傭兵団の2人がレブリック子爵家の家紋が入った男を紹介する。
「イグルと申します。
エリー殿、義勇軍を率いてのこの度の援軍、レブリック領領主ルーカス・レブリックになり代わり、感謝を申し上げます」
そう言ってイグルは洗練された動作で頭を下げた。
その所作は武人のような雰囲気は無い。
多分、事務畑の人間。
レブリック子爵領軍の軍政官辺りだろうか?
私はイグルを天幕に案内すると、早速彼と情報を交換した。
ルーカス様率いるレブリック子爵領軍は予想通り南の草原に簡易陣地を設営し、周囲の村に屯する敵兵を排除しながら少しずつ東へと進んでいたらしい。
ルーカス様の方でも、今回の紛争の裏にフリードのアホが糸を引いていることに気付いたそうだ。
「一応、外交ルートを通じてハルドリア王国に抗議するための人を送ってはいるのですが、対ハルドリア王国の筆頭外交官であるルーカス様ご本人が辺境から動けない上、下級兵士の証言のみで、フリードがサージャス王国に帝国侵略の指示を出した文章などの物的証拠はありません。
それに時間的な問題もありますし、領民に被害が出ている以上、外交力による解決は難しいと思われます」
「そうですわね。
それに、おそらくハルドリア王国は関与を否定するでしょうね。
もし認めてしまえば周辺の属国以外の国々からの経済制裁は免れない。
フリードは考え無しの無能ですが、国の上層部にはそれなりに優秀な人材が揃っていますわ。
決定的な証拠、それも言い逃れできないほどの物でも無ければ逃げられるでしょうね」
一応、大国の王太子であるフリードに対して散々な言い草だが、イグルは私の素性をルーカス様から聞いているそうだ。
まぁ、あんなに堂々とレブリック子爵家に世話になっていたのだから知っている人間がいるのも当然だ。
勿論、ルーカス様が信用している人間にしか伝わってはいないはずだが。
イグルも今回の義勇軍を率いているのが私だと聞いてルーカス様が情報共有のために派遣してくれたというわけだ。
「ではルーカス様の今後の行動は?」
「はい。我々はサージャス王国軍に実効支配されている村々を解放しながら東へと進み、ブロッケン砦を奪還する予定です」
「なるほど。我々に対しては何と?」
「義勇軍の方々もレブリック子爵領軍と足並みを揃え、村々を解放しながら東へ向かっていただきたいとのことです」
「わかりましたわ。
ですが我々は移動速度を重視した少数精鋭の構成、村々の解放は問題ありませんが、その後の防衛や村人の保護に人を割くのは難しいですわね」
「では此方から防衛の人員を向かわせましょう」
「お願いしますわ」
話が纏まると、レブリック子爵領軍の簡易拠点へ帰陣するイグル。
彼はレブリック子爵領軍から2名の護衛を連れてきていたが、一応此方からも走竜傭兵団から4人、護衛に着いてもらった。
「イグル殿、ルーカス様によろしくお伝えくださいませ」
「畏まりました。
ではエリー殿、また東で。ブロッケン砦手前の草原でお会いしましょう」
イグルを送り出した私は東へ進軍するため、ミレイに皆を集めてもらうのだった。
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