辺境の村解放戦③
私とシシリー、エルザとマルティの2組は村の東と西に分かれ、野生動物を避けるための簡易的な木柵を飛び越えて村の中に侵入した。
村は一見静かだが、よくよく耳を澄ませてみると、くぐもった呻き声や短い悲鳴が聞こえてくる。
シシリーと手振りで合図し、近くの民家の扉をそっと開き、スルリと影のように滑り込む。
民家の中には煙草の煙が充満しており、男達が4人、カードを手に机を囲んでいた。
男達の背後には2人、酒瓶を抱えた親子らしき女性と少女が立っている。
音もなく現れた私達に初めに気が付いたのはその親子だった。
母親の目が見開かれ、少女が驚きの声を上げようと口を開いた。
しかしその声が発されるより早く、シシリーが投擲したナイフが親子の目の前、私達と向き合う形で座っていた男の喉に突き刺さった。
「あがっ⁉︎」
仲間の喉に飛び込んだナイフに驚いた3人だが、叫び声を上げる前に処理させてもらう。
私達に背を向けていた男の首をすれ違い様に斬り落とし、私が向かって右側、シシリーが左側の男の口を塞ぎ喉を掻き切った。
勿論、即死はさせない。
口を塞がれ、叫びを上げられない男は暫くもがいた後、動かなくなった。
見ればシシリーも同様に加減して斬っている。
結果的に見れば首を刎ねた男が一番幸運だったのだろう。
彼は何が起こったのか理解することもなく、首を失った自らの体を視界に収めた後、意識を手放したのだから。
「ご。ごばぇあ!」
見れば喉からナイフを生やした男がフラフラと立ち上がっていた。
意外としぶといわね。
私がトドメを刺そうと一歩を踏み出すが、それよりも早く男の後頭部に酒瓶が叩きつけられた。
「あご!」
倒れ込んだ男を母親が砕けた酒瓶で、娘が喉に刺さっていたナイフを握り、涙を流しながら滅多刺しにしていく。
私とシシリーはしばらく彼女達の好きにさせ、男の悲鳴とも呻きとも取れない反応が消え失せた後、その肩に手を置いて彼女達を止めた。
「もう死んでいるわ」
「う、うぅ」
「こいつが!こいつがお父さんを!」
怒りと憎悪で涙を流す2人を宥め、しばらく床下の貯蔵庫に隠れているように伝えた私とシシリーは次の民家へ向かった。
その民家では裸の男が少女に覆い被さり腰を振っていた。
少女の裸体には至る所に痣が見られ、頬は赤黒く腫れ上がっている。
「おら、雌ガキ!もっと絞めろ!」
怒鳴りながら男は拳を握り腕を振り上げる。
そしてその拳をグッタリとして反応を返さない少女の顔に振り下ろした。
しかしその腕が少女の頬を打つことはなかった。
男の腕は肘から先が消失していたのだ。
「へ?」
シシリーが間抜けな声を上げる男を蹴り飛ばし、少女から遠ざける。
「ぐぁ!」
「ほら、落とし物よ」
私は、痛みに呻く男に肘から斬り落とした腕を投げ渡してやる。
「へ?え?」
キョトンとした顔の男は、反射的に腕を受け取ろうと手を伸ばす。
残っていた左手で自分の右腕を受け止めた男だったが、その衝撃で受け止めたはずの左腕が右腕と同様に、肘から先が握った右腕と共に床に落ちる。
「え?」
「あらあら、ダメじゃない。ちゃんと受け止めないと」
私のフリューゲルは斬れ味に特化した魔法武器。
斬られた魔物がそれに気付かず数日を過ごした後、首が落ちたなどという逸話が残っている名剣だ。
「あ、あ……」
一拍を置いて男の腕から血が噴き出す。
自らの体から流れ出る大量の血を見て叫ぼうとした男だが、それよりも早くシシリーの短剣が男の喉に突き込まれる。
ビクン、ビクンと痙攣し、血の泡を吹きながら、ゆっくりと死へと向かってゆく男を無視して、私達は少女の状態を確認する。
傷は多いけどすぐ命に関わるものではないわね。
私が治しても良いが、今は村の制圧を優先させたい。
此処は治癒魔法師のリサに任せるべきね。
「酷いわね」
「ええ、後は村長の家に居る指揮官を押さえるだけだから、シシリーはリサ達を呼んできて頂戴」
シシリーにリサとサリナを呼びに行ってもらい、私は別の場所を制圧してきたエルザ達と合流、共に指揮官を捕縛するべく村長の家へと向かうのだった。
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