表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/308

辺境の村解放戦②

 私は薄皮一枚を切る程度に刃を男の首に押し付ける。


「ひっ!」


 僅かに血が滲み、男が短い悲鳴を上げた。


「貴方達は何者?正規兵じゃないわね。サージャス王国の徴募兵?」

「お、俺達は、ハ、ハルドリア王国の者だ」

「ハルドリア王国?」


 王国が属国であるサージャス王国に援軍を出したってこと?

 でもあの脳筋がこんな大義も無い戦いに軍を出すかしら?

 奴はバカだが愚かではない。

 サージャス王国の言い分が、街のチンピラの言い掛かりと変わらないと気付かないわけがない。


「お、王子様が村に来て……従軍すれば金が貰えるって……」

「王子ですって?」

「あ、ああ。戦争が起こった時、軍事訓練でたまたま王子様が国境の近くに居て、俺達みたいな奴らを集めて援軍に来たんだ」

「…………ほぅ」


 あのフリードが軍事訓練?

 今までそんなことをしたことは無かったはずだ。

 アイツは脳筋の息子らしく、才能はあるが、努力嫌い故、技量は下級騎士程度。

 神器を使えばもう少し戦えるだろうけど、それでも一流には届かない。

 そのフリードが軍事訓練に参加している。

 それも状況を考えると軍を率いている。

 更にたまたまサージャス王国との国境近くに居たと言う。

 こんな偶然があるのか?


「そうか……この紛争、何かがおかしいと思っていたけど、あのバカが噛んでいたのか」


 サージャス王国は資源が乏しい観光立国。


 食料自給率が低く、特に塩はハルドリア王国からの支援に頼っている。

 そして、その支援は王太子であるフリードの仕事だ。


 今までは私が書類を作り、フリードはサインするだけだったが、私が国を出た今、支援の内容を決めるのはフリードのはずだ。


 塩を絞めると言えばサージャス王国はフリードの指示を聞くしかない。

 脳筋に訴え出ようとしたとしても、属国との窓口は王太子の仕事、全て握りつぶされるだろう。


 動機は単純だ。

 私との婚約破棄の一件と、仕事をフォローする者が居なくなったことで国民や臣下からの支持が下がったので、安直に武功を挙げようと考えたのだろう。

 大人しく魔物でも狩っていれば良いものを。


 私は苛立ちを抑えながら尋問を続ける。


「それで、貴方達はこの村の住人に何をしたの?」

「そ、それは……」


 私は無言で言い淀む男の首に当てた短剣に力を込める。


「ま、まて!言う!言うから!」

「さっさと答えて」

「む、村の男連中は……その、て、抵抗したから……」

「殺したのね」

「………………」

「女子供は?」

「…………お、女子供は家に閉じ込めて……その、い、いろいろと世話を……」

「そう、もう良いわ」


 私は言葉を濁す男に自分達が何をしたのかを教えてやる。


「貴方達のやったことは戦時国際法違反、重罪よ。通常、この手の紛争はお互いの軍がぶつかり合い、ある程度の所で和平交渉をして手打ちになるもの。

 でも貴方達が村人に手を出したことで落とし所が無くなった。

 最低でも受けた被害と釣り合うだけの報復をしないと帝国の面子が立たない。

 貴方達の身勝手な行いで大勢の人間が死ぬでしょうね。

 それは赤の他人かも知れないし、貴方の大切な人かも知れない」

「そ、そんな!俺達はただ命令されて……。

 村を襲ったのだって、王子様が……」

「え⁉︎」


 男の言葉に私だけでなく、黙って話を聞いていたエルザ達も驚きの声を上げる。

 彼女達は上級冒険者、紛争に参加する可能性もある為、Dランク以上に上がる試験には国際法などの知識も求められる。

 戦時国際法における民間人の保護は、多少なりと戦いに身を置く者にとっては常識なのだ。


「ハルドリアの王子は何を考えているんだ!」

「サージャス王国を滅ぼしたいのか!」


 エルザとシシリーはフリードの異常な命令に怒りと驚きをあらわにし、マルティは事の大きさに動揺している。

 そんな彼女達の反応を見て、男はようやく自分達のしでかした事の重大さを自覚したのか、顔面蒼白で震え出した。


「少しでも被害を小さくしたいと思うなら知っている事を全て話しなさい」


 それから私は男から、村にいる男達の装備や配置、指揮官などの情報を聞き出した。


「聞きたい事は以上よ」


 そう言って男の首に当てていた短剣を下ろす。


「……………………な、なぁ」

「なに?」

「あんた達と一緒に俺も連れて行ってくれないか?」

「え?」

「俺、償いたいんだ!あんた達と一緒に戦って、傷つけてしまった村人達に償いをしたい!」

「貴方…………何を言っているの?」

「へ?」


 私が素早く短剣を振るうと、頭の中にお花畑でも咲いているとしか思えない事を言い出した男の喉から血飛沫が上がる。

 重要な血管を傷付けて即死しない様に、されど自力での治癒が不可能な深さで。


「少しでも償いたいと言うのなら、可能な限り長く、出来る限り苦しんで……死になさい」


 もがき苦しむ音は魔法により掻き消え、静寂の中、のたうち回るだけの男を残して、私とエルザさん達は村人の救出へと向かうのだった。

お気に召して頂けたらブックマーク登録、評価をお願いします。

また、感想を頂けたら嬉しいです。


(・ω・)ノシ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  まぁ、この段階で官軍と共闘したから無罪……とはならんなぁ。  ただ男が一概にお花畑かと言われると。多分庶民向けのお芝居や詩ならそういう筋で許されるものが多いかもなぁと、思うのです。わかりや…
[良い点] 復讐系の小説は主人公が胸糞野郎だからあんま好きじゃないけどエリーは心惹かれるものがあるから読んでいて楽しい。 あとサクサク読めるからストレスなくていいですね! [気になる点] ありきたりな…
[一言] すごいな、この作品戦時国際法という言葉が出てきて冒険者も一定ランクには戦時国際法など筆記試験があるとは
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ