辺境への進発
帝都の門の外、草原に集まった武装集団を前に、私は立っていた。
「思っていたより集まってくれたわね」
「はい。冒険者と傭兵合わせて74名です」
「有難い話だわ。代表者を集めて頂戴」
「畏まりました」
冒険者パーティと傭兵団のリーダー達に集まって貰う。
《鋭き切先》のリーダー、Aランク冒険者エルザ。
《灼熱の拳》のリーダー、Aランク冒険者トーマス。
《牙竜の鱗》のリーダー、Bランク冒険者リック。
《走竜傭兵団》の団長、ユリウス。
《ガンドル傭兵団》の団長、ガンドル。
以上の5人がこの集団の中核となるメンバーだ。
「皆さん、今回は私の依頼を受けて頂き感謝しますわ。
改めまして、私はトレートル商会の商会長エリー・レイスと申します」
個別には顔を合わせているがこのタイミングでもう一度自己紹介をしておく。
「依頼の内容を再確認します。
私の指揮でレブリック子爵領の東、ブロッケン砦を乗っ取り、帝国領内へ侵攻中のサージャス王国軍を撃退する事です。よろしいですか?」
5人が頷くのを確認して話を続ける。
「事前に説明した通り、今回、私達は帝国義勇軍としてレブリック子爵領へ向かいます」
私は宮廷で貰ってきた行軍許可証と義勇軍の指揮官への任命書を取り出す。
「食料や水などの物資はこちらで用意して有ります。
一先ず皆さんにはそれぞれ2日分の食料と水を配給します。
後続の馬車で追って物資を輸送する予定です。何か質問はありますか?」
「良いだろうか?」
私が尋ねると、《鋭き切先》のリーダー、エルザが軽く手を挙げる。
エルザは女性にしては背が高く、腰のあたりまで伸ばした赤い髪を一つに纏めた美人だ。
今回集めた冒険者の中で唯一、異名持ちと呼ばれる字名を付けられた実力者だ。
おそらくは冒険者達の中で1番の手練れ。
彼女のパーティは全員が女性だと言うこともあり、私やミレイと共に行動して貰う予定になっている。
「どうぞ、エルザさん」
「速度を出す為に手持ちの食料と水を減らすと言うのは理解できる。
だが、2日分と言うのは少な過ぎないだろうか?」
「ご安心下さい。皆さんに渡す2日分や後続の馬車で運ぶ物資はあくまでも予備です」
「予備?」
「はい、殆どの物資は私が運んで行きます」
「どう言う事だ?」
私は魔力を集める。
「神器【強欲の魔導書】」
私の左手に具現化した魔導書を5人が驚く。
「それは……神器か?」
「こいつは驚いた。なかなかの実力者だとは思っていたが、まさか神器まで使えるとはな」
「私の神器は物資を亜空間に保管する事が出来ます。現在、この神器には100人が数ヶ月は生きて行けるだけの物資が保管されています。
皆さんに渡す物資や後続の物資は万が一、私と離れた場合の為の保険です」
「コイツは驚いたな。大量の荷物を収納出来るなんて、とんでもない能力だぞ」
「緊急時ですのでご説明しましたが、私の神器については可能な限り内密にお願いします」
最早本当の神器【七つの魔導書】を隠す事は出来ないだろう。
少し調べれば私の神器の能力が複数ある事に気付くだろう。
だが一応口止めはしておく。
「他に何か有りますか?」
その後も、いくつかの質問に答え、レブリック子爵領の東を目指して出発した。
私達は50名を超える武装集団、当然、道中の領境などに有る関所で止められるが、行軍許可証や義勇軍の指揮官である事を示す書類を提示する事で問題なく通り抜ける事ができた。
そして数日、レブリック子爵領に入った私達は見晴らしの良い地形を選び野営地を設営する。
もうすぐ敵軍の勢力圏に入る。
避難しようと街道を進む村人なども幾度かすれ違い、状況などを聞き取っている。
《鋭き切先》のメンバーの1人、治癒魔法師のリサの故郷だと言う村を通り過ぎてすぐの場所だ。
此処から先はいつ敵と遭遇してもおかしくはない。
私は本部として設営した大きな天幕に中核メンバーを集める。
「此処を本部として行動を開始します。
先ずは周辺の探索、それと此処より森を挟んで南に展開していると思われるレブリック子爵軍と連絡を取ります」
「分かった。俺達のパーティから斥候を出そう」
「ウチのにも行かせる」
「子爵様への連絡は俺達に任せてくれ、走竜なら森の中でも馬並みの速度で走れる」
私は頷くと具体的に指示を出してゆく。
斥候達には数人ずつで近くの森や村に様子を伺いに向かわせ、走竜傭兵団の中でも足の速い騎兵にルーカス様への手紙を持たせて送り出した。
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