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辺境への対応

 辺境の紛争を注視すると決めた翌日、昼食を終えて午後の仕事を始めようかと言う時だった。

 浮かない顔をしたミレイが私の執務室を訪れたのだ。


「ミレイ、辺境で何か有ったの?」

「はい、先程届いた知らせなのですが…………ブロッケン砦が落とされました」


 ミレイの報告にルノアとミーシャが息を呑むが、私は瞑目して深く息を吐く。


 嫌な予感はしていた。

 確信は無かったが、サージャス王国が何の勝算も無く仕掛けて来た事に違和感が有ったのだ。


「詳細は入って来てる?」

「詳しくはまだ……ただサージャス王国軍に飛び抜けて練度の高い一団が居たとか」

「練度の高い一団……正規兵ではないのね?」

「はい、装備からサージャス王国軍ではないとの事とです」

「冒険者パーティ……いえ、傭兵団かしら?」

「おそらくですが。ただ、報告を聞いた限りでは周辺で活動している有名な傭兵団とは一致しませんでした」

「遠方から来たのか、実力のある新設の傭兵ってところかしら」


 私は顎に手を当てて考え込む。

 この状況でどう動くべきか……。


「砦を落としたサージャス王国軍とルーカス様はどうしてるの?」

「サージャス王国軍は砦を占拠して橋頭堡を築いている様です。

 子爵様の方の状況は不明ですが、進軍速度から考えるとまだ接敵していない筈です。

 先行していた部隊は敗走したのでしょう」


 サージャス王国軍が体勢を整えるのに数日、その後は砦までの領土の切り取りを宣言して防衛線を構築するか、もしくは砦を拠点に更に深く食い込んでくるのか。

 いずれにしても生産拠点の計画の障害になるのは間違いない。


「………………決めたわ」

「エ、エリー様?」

「戦場に行くわよ!ミレイ、食料やポーションなどの物資を集めて頂戴」

「エリー様、本気ですか?」

「勿論よ。冒険者や傭兵を雇って私が率いるわ。

 たった1日で堅牢なブロッケン砦を落とせるレベルの戦力が相手では数が勝るレブリック子爵領軍でも敗れかねないわ。

 そうなれば辺境の混乱は止められない。

 折角築き上げた私の商会もタダでは済まないでしょう」


 私は引き出しから紙を取り出すとサラサラと書き付けて封をする。

 そして2通書いたその手紙と、念の為にとルーカス様に貰っておいた紹介状をルノアに差し出した。


「ルノア、この手紙を冒険者ギルドと傭兵ギルドのギルドマスターに届けて。

 この紹介状を見せればギルドマスターに会える筈だから」

「は、はい!」

「ミーシャもルノアと一緒に行って頂戴」

「畏まりました!」


 2人を送り出した私は普段着から正装に着替える為に私室へと移動した。

 これから宮廷に向かうつもりだ。

 私が私的に集めた兵力を引き連れて戦地に向かうより、帝国の許可を取って、義勇軍としての体裁を整えた方が動きやすい。


「エリー様、本当によろしいのですか?」

「もう決めた事よ」

「ですが、我々が戦地に向かえばエリー様の居所も王国の知るところとなるでしょう」

「ええ、本当はもう少し影響力を高めて、戦力を整えてから表に出るつもりだったんだけどね。

 でも仕方ないわ。

 あの村の人々はもう私の商会の一員、身内を見捨てては今後の商会の展開の障害になる。

 それに今回の紛争は何かおかしいと思うの。

 サージャス王はこんな無茶をする人では無かった筈よ」

「ではエリー様はこの紛争には何か裏が有ると?」

「ええ、それを確かめる為にも私が戦地に向かう必要があるわ」



 ◇◆☆◆◇



「ちっ!」


 部下からの報告が纏められた書類を流し見て舌打ちをする。

 先日、辺境の地で勃発した紛争に関する報告書だ。


 攻め込んできたのは大した兵力も持たない筈の小国、それなのにブロッケン砦はたった1日で陥落してしまったらしい。


「どうにもきな臭い感じがするな……」


 無意識のうちに頬の大きな傷跡を撫でる。

 俺がまだ現役の冒険者だった頃からの癖だ。


 顰めっ面で書類を睨んでいるとノックの音が飛び込んできた。


「入れ」

「失礼します、ギルドマスター。

 ギルドマスターにお客様がお見えです」


 入って来たのは受付のサラサだった。

 狐人族の若い娘で独り身の冒険者共に人気がある。


「客?そんな予定は無かった筈だが……」

「はい、トレートル商会の商会長の使いの方だそうです。

 こちらの紹介状をお持ちになられました」


 サラサから紹介状を受け取り封蝋を改める。


「ちっ、貴族の紹介状か」


 封蝋に押されている紋章には翼が描かれている。

 この帝国に於いて、翼を紋章に入れて良いのは貴族のみだ。


「おい、こいつは何処の貴族の家紋だ?」


 俺は隣の机で我関せずと仕事をしていた冒険者ギルドのサブマスター、アイリスに手紙を突きつけた。


「開いて中を読めば良いだろ。

 だいたい少しは貴族関係の事柄も覚えろ」


 アイリスは文句を言いながらも紹介状の紋章に目を向けた。


「これは……レブリック子爵家の家紋だな」

「レブリック子爵ってぇと今、何処ぞの小国とやり合っている所だな」

「サージャス王国だ。

 まぁそうだな。トレートル商会はレブリック子爵領に本拠地があるからその縁だろう。

 おそらく今回の紛争の件だと思うぞ」

「何だ、お前は商会の事にも詳しいのか?」

「私も女だからな。化粧に興味くらいはある」

「はっはっは、面白い冗談だ……ごふっ!」


 腹を押さえて痛みを堪えるギルドマスターに代わり、アイリスがサラサに言う。


「詳しい話を聞こう。使いの者を通してくれ」

「はい!アイリスさん」


 サラサはアイリスに一礼して去っていった。


「……………サラサ、ギルドマスターは俺だぞ?」


 その哀れな呟きに答える声は存在しなかった。

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(・ω・)ノシ

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― 新着の感想 ―
[一言] また魅力的で強い女が登場しましたね… この小説、「強い女」がテーマなのかな?
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