辺境からの知らせ
☆お知らせ
フリードとシルビアが懇意にしている行商人の名前を『ジーナ』から『クリス』に変更しました。
m(_ _)m
「ジークよ、エリザベートはまだ見つからんのか?」
「陛下、日に3度も尋ねられても答えは変わりませぬ」
「むむ……」
次の謁見の者を待つ短い間、ブラート王は宰相であるジークに尋ね、ため息と共に答えを返されていた。
「国内でエリザベートと親しかった貴族や商人の元は探し尽くしたのですが、影も形も見つかりませんね」
「うむ。しかし、本当に良かったのか?
エリザベートを国家叛逆罪で指名手配などしてしまって?」
「仕方のない事です。
ああでもしないとフリード殿下の瑕疵となってしまいます。
王家を脅かす国賊とする事で、エリザベートを排除したフリード殿下の非を無くすのです」
「その程度で欺ける物か?」
「無理でしょうね。
しかし、国に必要な物は体裁です。
体裁さえ整っていれば、ある程度はどうにかなる物です。
それに指名手配はエリザベートの行方を探すのにも都合が良い。
エリザベートが懇意にしていた貴族や商人の屋敷を強制的に調べる理由にも使えますし、目撃情報を集めやすい。
生捕限定で賞金も掛けて有りますから上級冒険者なら捕まえられるかも知れません」
「容赦がないな、お前の娘だろう?」
「娘だからこそです。
貴族として国に尽くせ、と教えて来た筈なのに、己の責務を投げ出して逃げ出すとは嘆かわしい」
「だが、他国の間者に拐われた可能性もあるのではないか?」
「いいえ、地下牢に残されていた【氷人形】にはエリザベートの魔力が残っていました。
それにエリザベートと共に従者のミレイも姿を消しています。
エリザベートが自らの意思で失踪したのは確実でしょう」
「うむ……」
ジークの説明に黙り込むブラート王はもう一つ心配事があると言う。
「それともし、エリザベートを連れ戻せたとしてどうするのだ?
フリードは既にシルビア嬢との婚約を発表してしまっている上、エリザベートは国家反逆の罪に問われている。
今更王妃に据える事は出来ぬぞ?」
「仕方の無い事です。
表向きは処刑した事にして別の名を与えれば良いでしょう。
体の弱い第二王妃とでもしておけば、社交界に出ることも少ない。
エリザベートが身籠れば、シルビア嬢の子供と言う事にして育てれば次代も問題ない」
「ロックイート男爵が納得するか?」
「子が産まれた辺りで陞爵させれば口を噤むでしょう。
アレは権力が欲しいだけの小者です。
国を奪ろうなどと言う気概は有りませんよ」
「そうか」
そこで謁見の間の扉が開かれる。
次の謁見希望者が来たのかと思ったが、それならば扉を開く前に伺いを立てる筈だ。
少々不審に思いながら扉を見ると、息を切らせた伝令兵が毛足の長い絨毯を駆け、ブラート王とジークの前に跪いた。
「失礼致します!陛下と宰相閣下に火急の報が御座います!」
「うむ、申せ」
「はっ!先程、国境の砦より報告が届きました。
サージャス王国が帝国に攻め入ったとの事で御座います」
「な、何だと⁉︎」
「一体何故⁉︎」
「はっ!宣戦布告の内容によりますと、『過去、帝国により奪われた領土を取り戻す為』との事です」
「領土だと?」
首を捻るブラート王にジークが説明する。
「サージャス王国は20年程前、領土の一部を帝国に切り取られております。
しかし、アレは魔物の大発生から守り切れなかった田舎の村を帝国が保護した結果、一部の領土が帝国に併合された、と言う経緯だった筈です」
「何だそれは?
自分達が守り切れなかった民を守って貰っておきながら、20年も経って返せと言っているのか?」
「厚顔無恥も甚だしいですな。
しかし、サージャス王は温厚な御仁、何故この様な事を?」
◆◇★◇◆
ハルドリア王国の東、帝国との緩衝地帯となっている荒野の手前で揃いの鎧兜で武装した者達が屯所していた。
「殿下、まだ訓練を始めなくてよろしいのですか?」
新人近衛騎士のロベルト・アーティは自らが仕える王太子、フリードに伺いを立てた。
軍は騎士団とは別の組織だが、今回はフリードの腹心である近衛騎士ロベルトが実質的な指揮官となる。
この軍事訓練はフリードが企画し、自ら率いてやって来た物だ。
だがフリードはこの地に到着してから3日、休息を命じただけで一向に訓練を開始していなかった。
「ああ、皆まだ行軍の疲れがあるだろう。
疲弊した状態で訓練を行うのは危険だからな」
「……畏まりました」
ロベルトは多少不審に思ったが、フリードの言葉も間違ってはいない。
実戦ならまだしも、訓練で怪我をして除隊など笑い話にもならない。
『殿下は兵を慈しむ方だからな』そう納得する。
「失礼致します!」
「どうした」
フリードの天幕に駆け込んできた兵士が緊張を顔に浮かべながら報告する。
「急報です!サージャス王国が帝国に攻め入りました!」
「何だと⁉︎」
予想外の出来事にロベルトは驚きフリードの方を振り返った。
しかし、フリードは落ち着いた様子で顎に手を当てて思案している。
「フリード殿下?」
「うむ、サージャス王国は我が国の属国、大切な朋友の危機に座している訳にはいくまい。
幸い此処はサージャス王国との国境の近く、われらはハルドリア王国の先遣として、このままサージャス王国の救援に向かう」
「よ、よろしいのですか?」
「ああ、ロベルト。軍を指揮して見事、戦功を上げて見せよ!」
「……御意!」
突然の知らせに驚いたロベルトだったが、フリードは慌てる事なく友好国の救援を決めた。
自らが剣を捧げた王太子の決断力と冷静さに、ロベルトは誇らしい気持ちと、初陣の緊張と興奮で身体の震えを感じるのだった。
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(・ω・)ノシ