黒き戦斧②
伯爵一位。悪魔の階級を示すものですが、伯爵一位はかなりの高位悪魔です。
悪魔の爵位は生まれや血縁で決まる物では無いと聞きます。
力で奪い奪われるその爵位が示すのは、目の前の悪魔の実力と言う事ですね。
「ふふふ、【転移】」
烏……いや、悪魔スカーレットが再び【転移】の魔法を唱えました。
逃げる気かと思いましたが、わたしは直ぐに思い違いに気付きました。
「っ⁉︎」
突然影が差したかと思うと、上空から石造りの建物が降ってきたのです。
スカーレットは空間転移魔法で建物を私の頭上に転移させたのです。
「【月刃】」
わたしは咄嗟に【終結の戦斧】を振り抜き、魔力を刃に変えるスキルを放ち大きな石造りの建物を両断しました。
「凄いわね。一振りで真っ二つにしてしまうなんて」
「くっ⁉︎」
直ぐ後ろからスカーレットの声が聞こえました。
転移で私の背後を取ったのでしょう。
振り向き様に【終結の戦斧】の刃が漆黒の軌跡になってスカーレットの首を刎ねようとしますが、直前でスカーレットの
姿が掻き消えてしまいます。
「ふふふ、怖いわぁ」
離れた場所に有る瓦礫に腰を掛けたスカーレットがわたしを挑発するようにニヤニヤと笑います。
転移魔法、本来ならとても高度な魔法で、こんな風に詠唱や魔法陣も無しに連続で使えるものでは有りません。それをなすスカーレットは流石、高位悪魔と言えるでしょう。
「ふぅ!」
わたしは【終結の戦斧】の端を握り、大きく振り回してスカーレットに向かって投げつけました。
魔力を込めた神器の一撃は投げつけただけでもかなりの破壊力があります。
轟音を上げて破壊を撒き散らしたわたしの神器ですが、スカーレットは既に転移でわたしの背後に迫っていました。
「あら? 自棄になっちゃったの? 自分の武器を手放すなんて」
「そんな訳がないでしょう」
振り向いたわたしの両腕には赤い刃と青い刃の斧が握られています。
マジックバッグに収納していた斧です。
【終結の戦斧】の3分の1程の長さですが、近接戦ではこの位の長さの方が良いのです。
「燃え尽きて下さい」
赤い刃の斧をスカーレットに叩きつけます。
扇で受け止めようとしたスカーレットですが、わたしに斧から放たれた炎がその身を包み込みました。
炎の中から飛び出してわたしから距離を取ろうとするスカーレットに、今度は青い刃の斧を地面に叩きつけました。地面を走った魔力はスカーレットの足下から吹き上がり、瞬時に氷の刃を生み出しました。
この双斧は《灰被り》と《白雪姫》。炎と氷を生み出す魔法武器です。
「【転移】」
スカーレットは間一髪、少し後ろに転移して躱します。しかし、咄嗟の転移だったからか、現れたのは地面の少し上です。
わたしはスカーレットが着地するわずかな時間を狙い、マジックバッグから取り出した黒い刃の短刀を投擲しました。
短刀の狙いはスカーレットの急所……ではなく、彼女の影です。
「神器【終結の戦斧】」
投げつけた神器を一度消して再び生成します。
魔力の消費は激しいですが、わざわざ拾いに行く暇はないので仕方がありません。
「ちっ⁉︎」
【終結の戦斧】を振り上げたわたしから身を躱そうと、咄嗟に体を翻そうとしたスカーレットでしたが、体が動かない様です。わたしが投擲した短刀《影縫の刃》は影に突き刺す事で相手の動きを止める魔法武器です。
「貴女はわたしを舐めすぎです」
動けないスカーレットに、渾身の斬撃をお見舞いするのでした。




