風と炎③
モーリスと名乗った悪魔は爵位持ちと言うのに相応しい実力者だった。
鋼をも焼き切る俺の【鋭き火種】を最小限の動きで躱し、僅かな隙をも逃さず剣撃を繰り出して来る。
俺たちは周囲の魔物やレッサーデーモンを巻き込みながら斬り結ぶ。
モーリスを援護する様に飛び掛かるレッサーデーモンを斬りつけ、業火で燃やしながらモーリスに向かって蹴り飛ばす。
「むっ!」
モーリスは迫る炎の塊を斬り払うのでは無く、身をかがめて躱す事を選んだ。
武器を振る事で隙が出来るのを嫌ったのだろう。
しかし、それ故にその動きを予測するのは簡単な事だった。
【鋭き火種】を下薙にし、石畳みを削る。
斬り裂かれた石畳みから噴き出す様に炎が走る。姿勢を落として逃げ道が無いモーリスが無理やり体を捻るが、左腕を焼き斬り、傷口を高温で炭化させる。
「ぐぅ」
「終わりだ」
高温で周囲の空間を揺らめかせる神器を振り上げた俺は、地に転がる悪魔の背に振り下ろした。
しかし、俺の斬撃は空を斬り、打ち付けた石畳をドロドロに溶かした。
何処へ行った⁉︎
素早く目線を動かすが、モーリスの姿は見えない。
それどころか、アデル陛下や騎士達が対峙していた悪魔や魔物の姿も消えていた。
辺りを見回してもあれだけ居た魔物や悪魔が影も形も無い。
居るのは突然戦闘相手が消えて戸惑う騎士達ばかりだった。
「何だい? どうなってるのかな?」
「アデル陛下!」
「ルーカス卿、魔物や悪魔が突然消えて……」
「こちらもです。とにかく、今の内に隊を立て直しましょう」
俺とアデル陛下はこの不気味な現象に戸惑いながら負傷者の治療と陣形の再構築を指示する。
同時の周囲の気配を探ってみるが、静まり返って街並みが続くだけだった。
「アデル陛下、こちらの部隊は大丈夫です」
「ルーカス閣下、こちらも再編成完了致しました」
アデル陛下の配下であるエルフの弓騎士と俺の部下の騎士がそう報告してきた。
「さて、騎士達はこれで良いですが……どうしますか?」
「どうしようか?」
アデル陛下と顔を見合わせて眉根を寄せる。
戦える状態になったが、戦う相手が居なくなったのだ。
「オーキスト殿下からも伝令が有りました。向こうの敵も消えたそうです。
殿下はそのまま一旦離脱してナイル王都の周囲から魔物と悪魔を排除に動くそうです」
「うん、僕達も離脱するべきか、それともこのままもっと深くまで食い込むか」
今後の動きをアデル陛下と相談していると、不意に強力な魔力を感じ、2人同時に飛びすさり構えを取る。
「おやおやおやおや、なかなかなか良い反応をされますなぁ」
そう言ったのは民家の屋根の上にかがみ込んだ魔族の老人だった。
白衣を纏った枯れ木の様な老人は何が楽しいのか楽しそうに笑っていた。
「何者だ⁉︎」
「ワシの事は蚕とでも呼んでくれれば良いぞい」
「蚕?ふざけてるのかい?」
「いやいやいやいや、ふざけてなんか居ないよお嬢さん。本名なんてもう忘れてしまったのさ」
楽しそうに話す老人は軽く手を振ると、その手に片腕のない悪魔を召喚して見せた。
「アレはモーリス⁉︎」
「ふふふふふ、良いだろう?生きた爵位持ちの悪魔なんて滅多にない素材だろ?」
蚕はモーリスの襟首を掴み、もう片手を掲げて空中に魔法陣を描いて見せた。
その魔法陣からは強大な魔力が感じられる。
「分かるかい?感じるかい?この強大な魔力を。この場に集められた魔物や悪魔の魂を使って作ったんだよ」
ニタニタと笑みを浮かべた蚕は老人とは思えない機敏な動きで気絶しているモーリスを魔法陣に向かって放り投げた。
「さあ、実験を始めよう」




