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前哨戦⑨

 脱力した体に急激に魔力を流す事で、身体能力を爆発的に向上させるスキル【一鎧】。

 バアルの体の周りを可視化される程の魔力が渦巻く。

 剣を鞘に収めたグレナムがハルバードを足で蹴り上げ再び手にすると、刃から生み出した風を背に受けて駆け出す。

 だがバアルが鎧の様に纏った魔力は、風の魔力を纏ったグレナムのハルバードの刃を弾いた。


「くっ、神器か⁉︎」

「そんな上等なもんじゃねぇよ!」


 グレナムは、スキルで底上げされたバアルの拳を完全に躱す事が出来ずに数発掠める。

 ただそれだけで肉が裂け、血飛沫が飛んだ。


「厄介な技だ」

「死ねや!【ニ斧】」


 全身を強化していた魔力を振り上げた右足に回したバアルは全身のバネを使って足を振り下ろす。


「ぐぉお!!!」


 ハルバードで受け止めたグレナムだが、強力な魔法武器であるそれを以てしても、バアルの全力のスキルを受け止める事は出来なかった。


 柄の中ほどから真っ二つに折れたハルバードを投げ捨てたグレナムは剣の柄に手を掛けながら飛び跳ねる様に背後に退がる。


「逃がすかよ!【三爪】」


 足の魔力を今度は両手に集め、バアルは獣の様に姿勢を低くし、地面を滑る様に駆け出した。


「おらぁ!!」

「ぐぁあ!!」


 その一撃は正に魔獣とでも呼ぶべき物だった。

 爪状の魔力が防御の為に掲げた剣ごと、グレナムの体を抉った。


「最後だぜ!【四拳】」


 全ての魔力を両腕から右拳に集める。

 その状態から繰り出すのは当然、拳による一撃。

 腰を落とし、右腕を腰だめに構えたバアルは、一拍の間を置いてその拳を繰り出した。



 ◇◆☆◆◇



「此処は……」


 私は素早く周囲に目を向ける。

 周りには何も無い。

 岩と砂だけの空間だった。


「ミレイ様……此処は一体……」


 近くにはミーシャとルノアの姿はある。

 そして少し離れた所には梟の姿も。

 さっきまですぐそばで刃を合わせていたはずなのに……。


「荒野に飛ばされたのでしょうか?」

「いえ……これは異空間ですね」

「え?」

「空間全てに奴の魔力を感じます。

 恐らく魔力によって作られた空間です」

「そんな……空間作成なんて、伝説の高等魔法ですよ!」


 その通りだ。

 こんな魔法、使える人間が居るはずがない。


「ふふふ、正解だよ」


 そう言ってゆっくりと近づいてくる梟の姿が蜃気楼の様に揺らぎ、その姿を変えた。

 顔の作りや体付きは変わらない。

 しかし、その頭の角と白黒が反転した特徴的な瞳は見間違える筈がない。


「悪魔だったのですね」



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