前哨戦⑧
俺が繰り出す拳をグレナムは長く取り回し辛いハルバートで器用にいなしていた。
「ちっ、お嬢がクソ王子の成れの果てを始末するまでに片付けなければいけねぇってのにちょこまかしてんじゃねぇぞ!」
「くっ!」
拳が当たる瞬間、僅かに速度を変える事でグレナムのハルバートをかち上げた。
これはスキルではなくテクニック。
純粋な身体技能だ。
受け流しは正確さが求められるので、こうしてタイミングさえずらしてやれば、不完全では有るがダメージが入る。
だがグレナムは直ぐにそれに対応して来やがった。
コイツの動きは天才のソレじゃねぇな。
努力を積み上げて来た奴の動きだ。
「テメェみたいな男がどうしてあんな奴に協力してんだ?
イーグレットはこの大陸を滅ぼそうとしてんだぞ!」
「分かってるさ」
「なら……」
「それでも!」
グレナムのハルバートが巻き起こした突風が刃となって俺の身体を切り刻む。
全力で魔力を纏った俺の身体は鋼の鎧を着込んでいる様な物だ。
それを物ともせずに切り裂くとは、以前に共闘した時は実力を隠していやがったって事か。
「イーグレット殿下がやろうとしている事が危険な事だと分かっている。既にナイル王国の民にも多大な犠牲が出ているしな。
だが、それでも俺はイーグレット殿下に恩義が有る!
忠義がある!
例え大陸を滅ぼしても返さねばならない恩義とこの手を血に染めても貫かねばならない忠義がな!」
大振りに薙ぐハルバートを手甲で受けようとした瞬間、グレナムはハルバートを手放し腰から剣を抜いた。
(ちっ、武器や勝ち方には拘らねぇって事か。コイツは武人じゃなくて戦士の戦い方だな)
ハルバートを払い除け、上段、中段、下段と連続で振るわれるグレナムの剣を捌く。
「ぐぉぉお!!」
しかし、全てを防ぐ事ができず、三箇所ほど剣を受けてしまい、特に左肩の傷は浅くなかった。
「もう良いだろ?拳を下ろせ。
魔神が復活したとしても、もしかしたら生き残れるかも知れないぞ」
「まるでこのまま戦っていたら俺が死ぬみてぇな言い方じゃねぇか」
「そう言ったんだよ」
グレナムのその言葉に、俺は胸の前で構えていた拳を下ろした。
勿論、諦めたわけでは無い。
肩から腕、胸から腰、腰から足へと順番に無駄な力を抜いてゆく。
その様子に警戒したのか、グレナムは俺から距離を取った。
正直ありがたい。
奴にはわざと隙を見せて誘っている様にみえるかも知れないが、真実今の俺は隙だらけなのだが。
こんな技、タイマンで使うなんて正気の沙汰では無いが、俺の覚悟が奴の忠義だか恩義だかに劣っている様に思われては敵わない。
俺は練り上げた魔力を丹田から全身へと広げて行き、スキルを発動する。
「舐めるなよ……【一鎧】!!!」




