帝都の社交界
煌びやかな衣装に身を包んだ貴人達が溢れるパーティ会場で、私はワインを片手に人を観察していた。
久しぶりの社交界だが、以前の様な国を背負うプレッシャーなどは皆無なので気楽な物だ。
「エリーさん、ご紹介したい方々がいらっしゃるのだけれどよろしいかしら?」
「勿論ですメラニー夫人」
この時期、帝都でいくつも開かれている社交パーティの一つ。
私はその場にメラニー夫人の紹介で参加していた。
メラニー夫人はレブリック子爵領の社交界の中心的な人物で、帝都でも顔が広い人物だ。
彼女はトレートル商会設立直後からの顧客で、私も何度かお茶会に誘われて交流していた。
今回の社交シーズンにメラニー男爵が参加すると聞いた私は、メラニー夫人に帝都で貴族令嬢やご婦人方に紹介して欲しいと頼んだのだ。
私の頼みを快諾した彼女の紹介で、帝都の貴族達にトレートル商会の宣伝をしているのだ。
「エリー会長のお話はメラニー夫人からお聞きしておりますわ」
「久しぶりにお会いしたメラニー夫人が以前にも増してお美しくなられていて驚きました」
「是非、エリー会長の商会の化粧品を購入させて頂きたいですわ」
自己紹介もそこそこに、メラニー夫人に紹介された方々が化粧品の話を始めた。
元々、その美しさと人当たりの良さで社交界の華と謳われたメラニー夫人がその美しさに磨きを掛けて来たのだ。
その秘密を知り、あわよくば自らも手に入れたいと思うのは当然の事だろう。
「私の商会は現在、帝都での営業に向けて準備しておりますわ。
生産力の都合で販売は会員制にするつもりです。
ああ、皆さまはメラニー夫人のご紹介ですから、優先的に会員権を差し上げますわ」
「まぁ!本当ですか⁉︎」
「ありがとうございます、エリー会長、メラニー夫人」
「営業開始を楽しみにしておりますわ」
正直に言えば、現在の規模になったトレートル商会の生産力はかなりの物だ。
だが、会員制にするのは希少価値を上げて客単価の上昇を狙うのと同時に、トレートル商会の会員権を持つことが貴族女性の一種のステータスになる事を狙っている。
更にはインフルエンサーであるメラニー夫人に対するサービスと言う側面もある。
彼女に紹介して貰ったお陰で会員権を手にした人々はメラニー夫人に借りを作ることになる。
つまり、私の商会の宣伝をしてくれるメラニー夫人への報酬と言うわけだ。
「もし宜しければ皆様に我が商会の化粧品の試供品セットをお送りさせて頂きますわ」
メラニー夫人が紹介してくれた未来の顧客の心をがっしりと掴む為、私は笑顔でセールストークを続けるのだった。
パーティの帰り、馬車で送ってくれると言うメラニー夫人の誘いを丁寧に固辞した私は、酒で少し火照った体を覚ます様に夜風を浴びながら帝都を歩いていた。
「この時間になりますと随分と静かになりますね」
「そうね。昼間は騒がしいのにまるで別の場所みたいね」
少し遠回りをして昼間は賑わっている市場の辺りを散歩しながらミレイと2人、歩いている。
「てめぇ!待ちやがれ!このアマ!」
すると、直ぐそばの路地の奥から男の怒鳴り声が聞こえた。
「喧嘩かしら?」
「帝都とは言え、裏通りは治安が悪い場所も多い様ですね」
「追われているのは女性みたいだし、少し覗いておきましょうか。
もし、何か有れば寝覚めが悪いし」
「…………私としてはあまり賛同致しかねますが……」
「まぁまぁ、街のチンピラ程度が私達をどうにかするなんて不可能でしょ」
「はぁ」
私は渋るミレイを連れて路地裏へと向かっていった。
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