黒い光
アリスが、またアリスが拐われてしまった。
今度は私の目の前で……。
冷静に対処しようとする自分と、怒りに塗りつぶされそうな自分。
その2つがせめぎ合い、コントロールを失った魔力が暴しようとする。
「うぅ、く……」
「しっかりするんだ!」
ルーカス様が私の肩を掴む。
「だ、大丈夫よ」
深呼吸を数回繰り返し魔力を抑え込んだ。
その間にオーキスト殿下は部下を集めて周囲の捜索を命じていた。
私もセイントバードを召喚して王都中に放った。
そこにアデル達も合流して。
エルザとバアルが居たのにブラートの身柄を奪われるとは思わなかった。
エルザ達は責任を感じていた様だが、私も出し抜かれたのだから彼女達を責める訳にはいかない。
「ハルドリア王国からナイル王国まで、魔法陣や儀式も無しに一気に転移するなんて人間の魔力では不可能だわ。奴らはまだ王都にいる可能性が高い」
「ああ、最大限の警戒をしく」
草の根を分ける様な捜索を行ったのだが、3日たってもアリスは見つからなかった。
アリスが連れ去られたサロンでソファに腰掛けた私は、セイントバードの捜索範囲をナイル王国の方角に向けて徐々に伸ばす様に指示をだしていた。
「エリー姉様、此処に居ましたか」
「あまり根を詰めるなよ。いざと言うときに動けなくなってはいけない」
アデルとルーカス様が声を掛けてくれる。
「ええ、分かっているわ。でも一刻も早くアリスを……」
そう言ってナイル王国の方角に目を向ける。
「なっ⁉︎」
それは黒い光だった。
天に向かって空を切り裂く様に伸びる黒い光。
遥か空の上まで伸びた黒い光は、上空で真横に伸びており、まるで空間に巨大な亀裂が走った様な光景だった。
アデルやルーカス様もその非現実的な光景に目を丸くしていた。
「…………何が起こっているの?」
◇◆☆◆◇
「あ〜、ティーダさん〜。あれ〜何だと思うの〜?」
砂で作り上げた城のバルコニーで無気力に長椅子に寝そべったフラウが上空を見上げながら言った。
「わかんないッスよ。でも……」
隣の椅子に腰掛けたティーダもテーブルに頬杖を突きながら頭上の空間の亀裂から、空に立ち登る黒い光の柱、そしてその発生源であるナイル王国の王都へと順番に視線を巡らせる。
「悪魔共が無関係とは思えないッスよね。つまり邪悪な物に違いないッス」
視線の先のナイル王国王都は、全体が不気味な黒い光で包まれていた。




