謎の女
「何者だ!」
エルザの誰何の声が上がるが、女は答えずクスクスと笑う。
俺はエルザに目配せすると、2人で女の正面に立ち構えた。
「ふふふ、コレはなかなか面白い素材ね」
「「っ⁉︎」」
俺は目を離したりしていない。
エルザだって同じだろう。
それなのにその声は背後から聞こえた。
目の前に居た女の姿は消えている。
慌てて振り返ると、女はブラートをベールで隠された顔で覗き込んでいる。
「な、何だお前は!」
「貴女は……ふぅん、悪くは無いけど使いづらそうだわ。要らないわね」
「アデル!」
女の手刀がアデルの首に振り下ろされる。
しかし、間一髪のタイミングでブラートがアデルの身体を蹴り飛ばした。
女の手刀はアデルに当たる事は無かったが、代わりにブラートの足を斬り落とした。
羽虫でも払うかの様に何気なく振るった様に見えた手刀で、魔力を封じられているとは言え、鍛え上げられたブラートの丸太の様な足を切断した。
明らかに普通の女ではない。
そもそも、どうやってこの部屋に入ったのか。
「構わねぇ!殺せ!」
俺が叫び拳を振り上げながら飛びかかるのと同時に、エルザや騎士達も剣を向ける。
「ふぅ、面倒ね」
女が腕を振るう。
騎士の剣が砕け、頭が弾け飛ぶ。
血飛沫が舞う中、女の姿が霞む。
俺は反射的に腕を上げて魔力を全力で纏う。
同時に衝撃が走り、壁に叩き付けられ、魔力強化された素材で出来ている筈の壁に大きな亀裂がはいった。
「ぐっ……」
不味い!
左腕は完全に折れている。
右腕と左足にも罅が入っているし、肋も何本かやられているな。
エルザは……。
俺が視線を巡らせると、頭から血を流して倒れているエルザの姿があった。
生死は分からない。
「あらあら、まだ生きているなんて、随分と強いわね」
女は俺達を見てそんな事を言いながら、ブラートの髪を掴み上げる。
「ぐっ、何だ貴様は!何が目的だ!」
「少し静かにして頂戴」
「ぐぁ!!」
女がブラートを蹴り付けると、意識を失ったブラートは静かになる。
「ち……くしょう……」
瓦礫の中から立ち上がると、女は此方を見る事もなく、ブラートを片手で引きずって部屋の暗がりの闇に溶ける様に姿を消した。
「だ、誰か!急いで救護兵を呼べ!それから王城の周囲を捜索しろ!脱走だ!」
いち早く我に返ったアデルが廊下の外に叫んだ。
慌ただしく動き始める兵や従僕に指示を出すアデル。
「オーキスト殿下は何処だ」
「現在はサロンでエリー殿とルーカス殿と話し合っている頃かと……」
「直ぐに知らせろ!触媒や詠唱も無い転移だ。そう遠くには行っていない!王都の出入りを封鎖して……」
指示を出すアデルの横で、俺や目を覚ましたエルザは治療を受けていた。
騎士達は3人が死んで、2人は一命を取り留めたが再起は不能だ。
「ぐっ、あいつ……何者なんだ……」
「分からない。ブラートを連れ去るのが目的だったのかしら……」
その時、俺たちの体を押さえ付ける様な強大な魔力を感じた。
抵抗力の低い侍女や従僕の中には泡を吹いて気を失う者もいる。
「ぐぁ、こ、これは……」
「……お嬢の魔力だ」
「エリー……姉様に、何か……」
お嬢の魔力は凍える様な冷気となり、水桶の中の水を凍りつかせた。
それから数分、お嬢の魔力が消えるまで俺達は動く事すら出来なかった。




