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王都の人々①


 その噂は突然囁かれ始めた。


「帝国と戦争になるんですって」

「フリード殿下が攻め込んだそうだぞ」

「条約はどうなったんだ?」


 ハルドリア王国がユーティア帝国に攻め込んだと言う噂。

 ハルドリア王国は数年前にユーティア帝国と激戦を繰り広げ、ようやく停戦協定を結び平和が訪れたはずなのだ。

 国王であるブラート陛下は歴戦の強者だが、戦争で犠牲が出ない筈はない。

 そして真っ先に死ぬのは平民の下級兵や地方貴族が強制的に徴兵した領民である。


「しかし妙だよな。普通、戦争に向かうなら王都で大々的にパレードを行う筈だろ?」

「そうだよな、何でもフリード殿下が地方で兵を起こして攻め込んだ様だぞ」

「王様は関与してないって事か?そんな事有り得るのか?」


 酒場で男達が首を捻り話していると、新たな男が酒場の扉を勢い良く開き飛び込んで来た。

 同じ職場で働く男達を見つけると慌てて駆け寄ってくる。


「おい、お前ら!大変だ!ブラート王様が募兵しているらしい!」

「なに⁉︎」

「やっぱり、戦争は王様の計画だったのか」

「食べ物とか買い溜めしておかないと、直ぐに値上がりするぞ」

「薬もだよな。うちの娘、体が弱いのに」


 そんな会話が王都の至る所で交わされていた。


 ブラート王が兵を率いて王都を出立してしばらく、戦地の情報は王都までは届いて居なかったが、食料や医薬品を中心に物価は高騰し、最低限の兵しか居ない王都の治安は少しずつ悪化していた。

 その状況でも自らの利益を得ようと動く者もいる。


「兎に角、食料と医薬品、馬、飼葉、酒にタバコ、あらゆる物資を買い集めろ!」

「しかし商会長、これ以上は王都の物価が……」

「馬鹿者!地方から手当たり次第に買い集めるのだ!農民から直接買い叩き、王都の物価が上がり切った後、市場に流すんだ!」

「は、はい!」

「くっくっく、このチャンスを逃す物か!地方の物価が上がる前に商材を買い集めるのだ。

 そうすれば通常の数倍の値になる!」


 彼の様な商人は少数派では無い。

 一部の善良な商人も居たが、直ぐに淘汰される事になる。

 結果、強欲な者たちによって、戦時下の物価の高騰は加速して行き、王都の民の生活は真綿で首を絞める様に苦しくなって行く。


「やだ、また小麦の値が上がっているわ」

「奥さんも買って置かないと、また直ぐに値上がりするわよ」

「塩も油も値上がりしてるって」

「街道には盗賊も増えてるそうよ。この前も戦地に送る物資が強奪されたって」

「怖いわ。戦争なんて早く終わらないかしら?」


 真に戦争を望んでいる民は少ない。

 しかし、それでも国民は国の英雄である《雷神》ブラート・ハルドリアを信用していた。


 ハルドリア王国が敗戦するなど、微塵も考えて居なかったのだ。


 何処か楽観的だった国民が異変を感じたのは、地方貴族達が一斉に王都に集まり出した時だった。

 今まで自らの領地を守って居た筈の貴族達、彼らが王城に次々と入って行ったのだ。


 一体何が有ったのか、と民達が噂していると、突然数年前から南大陸に留学していた筈のアデル姫が女王として戴冠したと宣言したのだった。

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