帝都での予定
私は指先を針で刺し、プクリと滲んだ赤い血をミーシャの首元の文様に触れさせる。
そこにセドリックが固有魔法の【隷属】を使う事でミーシャの主人が私へと変更される。
「これで契約は完了です」
「ええ、ありがとうございます」
「ミーシャ、しっかりとエリー会長にお仕えしなさい」
「は、はい、セドリック様。今までお世話になりました」
ミーシャはペコリと頭を下げる。
その言葉は本心らしく、セドリックに向けられる瞳には、他の商会で見た奴隷が商会主に向ける負の感情は読み取れなかった。
セドリックは奴隷達と友好的な関係を築いていると言うことか。
セドリックに見送られ、商館を後にした私達が宿に戻って来たときには、すっかり日も暮れてしまっていた。
「今日はもう各自好きにして良いわよ。
ミーシャはミレイに預けるわ」
「畏まりました」
「は、はい!よろしくお願いします、ミレイ様」
「はい。本格的な指導は屋敷の用意が整ってからになります。
しばらくはトレートル商会の業務や従者として必要な知識等を座学中心に教えて行きます」
「はい!」
ミーシャの教育はミレイに任せておけば良いわね。
あと決めないといけないのは賃金……別に奴隷なので必要ではないけれど、お小遣いくらいはあった方が良い。
いくら奴隷だからと言って休みや報酬も無く働かせては効率は落ちる物だ。
それにミーシャが真面目に働いてくれるなら、いずれは奴隷身分から解放して正式に従者として雇っても良い。
私は今後に備えて決めなければいけない事柄を整理しながら、その日は眠りにつくのだった。
◆◇★◇◆
ギンッ!
硬い金属同士がぶつかり合う高い音が鳴り響き、騎士の手から刃を潰した訓練用の模擬剣が宙へと弾き上げられた。
「ま、参りました」
喉元に穂先を潰した槍を突き付けられた騎士が降参の意を口にする。
騎士の言葉に槍を下ろしてフリードは小馬鹿にした様に言う。
「ふん!訓練が足りないんじゃないのか?
我が国の騎士としての自覚を持て」
「も、申し訳ありません殿下。ご指導ありがとうございます」
「しっかりと訓練しておけ!」
フリードは頭を下げる騎士に満足げに頷くとそう吐き捨てて訓練場を後にした。
騎士に訓練をつけてやり、上機嫌なフリードが汗を流した後、もう一度騎士に言葉を掛けてやろうと、訓練場に向かった時だ。
訓練場横の更衣室から声が漏れていた。
「しかし殿下にも困った物だな」
「全くだ。わざと負けるのも結構神経を使うと言うのに」
「だが勝ってしまうとコニーの様に辺境の砦に飛ばされるかも知れん。
ならわざと負けて、煽てておく方が賢いだろう」
「殿下もお父上である陛下の血を引いておられる。筋は悪くないのだがな」
「いくら才能があったとしても努力も無く強くはなれんだろう。
せめてエリザベート様の半分でも努力して頂ければ少しはマシになるのだろうがな」
「全くだ」
「「はっはっは」」
ギリッ!
フリードが奥歯を噛み締める。
今すぐ部屋に乗り込んで不敬な騎士共を叩き斬りたいが、流石にそんな事をすれば王太子とは言え、国王の怒りを買うだろう。
フリードは怒りの篭った瞳に暗い炎を燻らせながらその場を後にした。
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