帝都の奴隷商
誤字報告、ありがとうございます。
m(_ _)m
「何故……私共の名前を?」
私の問いにセドリックは笑みを崩さずに答える。
「設立から一年程の短期間でレブリック子爵領でもトップクラスの商会になったトレートル商会ですからね。
その噂はその気が無くとも耳に入りますよ」
「セドリック会長程の大商人に名を知って頂いているとは光栄ですわ」
「私も此処でエリー会長と知己を得ることが出来て嬉しく思います」
私達は笑顔で握手を交わす。
お互いの本心を隠して笑顔で友好を口にするこの感じ、なんだか久しぶりね。
ああは言っているが、たかが子爵領の一商会の話だ。
帝都の大商人が注目する程の話かと言えば疑問を呈さざるを得ない。
では何故、彼程の商人が私を気に掛けていたのか。
おそらく私の出自を知っているのだろう。
だが、そんな事は一切匂わせる事なくセドリックは商売の話を切り出した。
「それで、本日はどの様な奴隷をお求めで?」
「ほう、では身の回りの世話が出来る者をお探しですか?」
「はい、エリー会長に付いて頂くので性別は女性で、種族は問いません。
領を跨いでの移動も多くあると思われるので、旅について来れる者が好ましいです」
「承知致しました。ご用意致しますので暫くお待ち下さい」
綺麗な礼を残してセドリックは部屋を後にした。
そしてしばしの間、お茶とお菓子を相手に時間を潰していると、セドリックが部屋に戻って来た。
「ご用意が出来ましたので、お手数では有りますがご足労願えますか?」
「ええ、分かりました」
セドリックについて部屋を出て、その背を追って歩き始めた。
商会の廊下は清潔で品の良い絵画や彫刻が飾られている。
廊下はいくつかの広い部屋が面しているが、その部屋には扉がなく廊下から部屋の中を窺う事が出来た。
ある部屋の中では子供の奴隷が机に座り、前方の初老の奴隷から算術を習っていた。
別の部屋では若い女性奴隷が年嵩の奴隷から裁縫を教わっている。
廊下の窓から見える中庭では体格の良い男達が剣の素振りをしていた。
彼らが身に着けている衣服は質素ではあるが、清潔で髪や髭も綺麗に整えられている。
「他の奴隷商会とは随分と違いますね」
「ええ、他の商会ではいかに奴隷に掛かるコストを減らすか、と言う方法で利益を上げようとされていますね。
ですが、私の商会では奴隷に教育を施して付加価値を上げております。
読み書き算術が出来る奴隷の方が価値があるのは自明の事です。
何も出来ない者より、何かの技能を持つ方が価値が有ります。
ですから私は奴隷達の適性に合わせて能力を伸ばしているのですよ。
それに奴隷は商品で有りますが、命ある人間でも有ります。
健康で清潔にしている方が血色も良くなる。
その分、値段も上がるのですが、価値を理解してくれる方は多く居ますよ」
セドリックの考え方は今までに無い物だった。
最下層の労働者と言う奴隷のイメージから逸脱する物だ。
だが、それは非常に合理的でもある。
彼の商会の扱う奴隷は非常に高い能力を持っていると知れ渡り、それはブランドとなっている。
他の商会も、それを真似る事も考えただろうが、教育には非常にお金が掛かる物だ。
資金力で劣る上、すでにブランドとして確立されているセドリック商会に勝てずにいるのだろう。
「さぁ、どうぞ」
セドリックに促されて部屋に入ると、調度品は僅かで、机と椅子が有るだけのシンプルな部屋だった。
私達が椅子に座り待っていると、セドリックに連れられて妙齢の女性が入ってくる。
その女性が候補の奴隷の様だ。
その後も数人、候補の奴隷をセドリックが紹介する。
その誰もが接客用なのだろう、上等な衣服に身を包み、礼儀正しく面談を受ける。
その技能もマナーも奴隷とは思えない程洗練されていた。
「次の者で最後です」
最後に通されたのはルノアとそう変わらない10歳程の少女だった。
緊張しているのか、少し動きは硬いが丁寧に頭を下げる。
その頭の上では猫の耳がピクピクと震え、尻尾が所在なさげに揺れている。
猫人族だ。
「ミ、ミーシャ・テイルと申しまひゅ」
言葉尻を噛んだミーシャは頬を染めてプルプルと震える。
「失礼しました。このミーシャは購入希望のお客様との面談は初めてなので少々緊張している様でして」
すかさずセドリックのフォローが入る。
「ミーシャは見た通りまだ幼いので、現時点での技能は先程ご紹介した者達に劣りますが、訓練の成績は優秀です。
獣人族ですので魔力は低く、魔法は弱い【身体強化】しか使えませんが、元の身体能力が高いので長旅にも十分付いて行けるでしょう。
それと、護衛とまではいきませんが、自衛程度には戦えます」
「あら、戦闘経験が?」
「ええ、奴隷になる前は両親と行商をしていたそうで、父親から短剣術を習っていたそうです。
当商館でも簡単な訓練は付けて有ります。
教官によると、実力は初級冒険者として及第点くらいだと」
ミーシャは行商の途中で野盗に襲われ、父親を亡くし、母親もその時の傷が原因で亡くなったそうだ。
まだ幼い彼女は、野盗に財産を奪われた上、母親の治療の為の借金も有り、1人で生きて行く事も出来ず、死ぬよりかは、と自らセドリックの所に訪れたらしい。
うん、自衛が出来ると言うのは大きいわね。
これからの成長次第ではかなり化けるかも知れないわ。
私は視線をミレイに移すと、彼女も僅かに頷いた。
「ではセドリック会長、このミーシャを買い取りますわ」
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(・ω・)ノシ