帝都の人材
私の商会の主力商品である化粧品のメインターゲットは貴族女性だ。
いずれは一般庶民でも購入出来る安価な商品も開発したいと思っているが、現状は客単価が高く、購買力のある貴族や一部の富裕層に狙いを絞っている。
その為、商館は貴族街に近い高級店の立ち並ぶ通りの一角に立つ大きな物件に決まった。
かなり値は張るが立地を考えれば仕方がない。
以前は商館ではなく、高級宿だった物件だ。
その為、馬車を停めるスペースが広く取られており、多くの個室がある。
貴族の買い物は、庶民の様に陳列された沢山の商品の間を練り歩き、購入する物を吟味したりはしない。
大抵は個室に案内されて、接待を受けながら、希望の商品やおすすめの商品を丁寧に紹介されるのだ。
その為、貴族を歓待出来る個室が複数ある物件は都合が良い。
早々に契約を交わした私達は、不動産屋の仲介で改装業者を紹介して貰った後、逗留している宿に戻って来た。
すると、ルーカス様の所に送った者が戻って来ていた。
ルーカス様は明日には時間を作ってくれるらしい。
「となると今日の午後は特にする事はないわね」
先行していた商会員達はとても頑張ってくれて、早いうちに物件の購入が終わったので今日の予定が空いたのだ。
「エリー様、それならば人材を探したいのですが」
「人材?帝都で活動する商会員を集めるのはまだ早いわよ」
「いえ、商会員ではなく使用人を増やしたいのです」
「使用人?」
「はい、帝都の屋敷を維持する者が必要ですし、エリー様付きの従者も必要になります。
私が出来れば良いのですが、流石にこれ以上事業を拡大した場合、手が足りなくなります。
ですので、私の部下として使える人材を雇いたいのです」
「そうね…………うん、確かにその必要があるわね」
ミレイは優秀だ。
私の従者としては勿論、商会員としても動いて貰う必要がある。
その為、四六時中私に付いている事が出来ない。
ミレイは以前からそれを気に掛けていた。
「そうなると、商業ギルドで募集しましょうか?」
「いえ、屋敷の使用人はそれで良いと思いますが、エリー様付きの従者を普通に雇うのは少々不安が有ります」
「そうね」
「ですので、私は奴隷を購入するのが良いと考えます」
奴隷とは労働力として金銭で売買される人間だ。
基本的に奴隷には契約魔法の一種がかけられる為、まず裏切られる事はない。
「奴隷か……」
奴隷には大きく分けて2つの種類がある。
犯罪を犯した者が懲罰としてなる犯罪奴隷。
鉱山などで一定の期間、強制労働させられる軽犯罪奴隷と、人権が剥奪されて、死ぬまで薬の実験や危険地帯での作業などをさせられる重犯罪奴隷がある。
借金奴隷はお金で親に売られた者や借金が返せずに自らを奴隷商に売った者。
犯罪奴隷とは違い、借金奴隷の人権は保護されており、意図的に死亡させた場合は殺人の罪に問われるし、所有者には奴隷の生命を保護する義務がある…………………表向きには。
一応、法で保護されてはいるが、実際にはあからさまに虐殺でもしない限り、大きな問題になる事はない。
まぁ、私はそんな事をするつもりは無い。
ならば契約魔法で縛られる奴隷は悪くない選択肢か。
「分かったわ、今日の午後は奴隷商に行きましょう」
宿では昼食を済ませた私達は帝都の一角、奴隷を扱う商館が集まる場所に向かった。
スラムに近いその場所は少々治安が良くない様で、ルノアはミレイとしっかりと手を繋いでいる。
奴隷を扱う商館の一つに入った私達は店主の案内で牢に入れられた人々を見て回る。
あまり衛生的ではない牢の中に数人が詰め込まれており、食事も最低限しか与えられていないのか、あまり体調も良くない様に見えた。
私やミレイはコレもこの世の理として理解しているが、ルノアは奴隷の扱われ方にショックを受けたのかミレイの背後に隠れて目を逸らしている。
「ありがとう、少し検討させて貰うわ」
店主にそう伝えて店を出る。
「あまり良い人材は居ませんでしたね」
「ええ、奴隷になるのは親に売られた子供や事業に失敗した商人が多いから、そこまで優秀な者は少ないのでしょうね」
「そうですね。稀に何らかの事情で才能ある者が売られている事も有るのですが……」
「次の商館に行きましょうか。…………ルノア、大丈夫?」
「は、はい。大丈夫です」
私はルノアの頭を撫でながら次の商館に向かって歩き出すのだった。
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