帝国への到着
カラカラと回る馬車の車輪は正面に見える大きな門に向かって真っ直ぐに進んでいた。
堅牢な防壁に囲まれた帝都は小高い丘から見ても全容が分からない程に大きい。
御者台で馬車の操車を教わっていたルノアは、生まれて初めて見た大都市に目を丸くしていた。
帝都の門に近づくと、身分確認を待つ旅人や冒険者が列を成して並んでいる。
人が多くなるので、まだ操車に慣れていないルノアからミレイが手綱を受け取り、ルノアは荷台の私やティーダのところに移動した。
帝都の門での身分確認は、多くの衛兵によってサクサクと進み、そう時間を置く事なく私達の番になる。
「次の者」
「はい」
衛兵に呼ばれてミレイが馬車を進める。
「我々はレブリック子爵領から来た商人です」
「そうか、ギルドカードを確認させてくれ」
ギルドカードとはギルドに所属している人間に発行される身分証だ。
私達3人は商業ギルドに所属しているのでそれを取り出して衛兵に見せる。
「あ、私は途中で乗せてもらったシスターッスよ」
ティーダはイブリス教の聖職者の証である紋章が刻まれた魔除けを見せている。
本来、街に入る場合、その街の住民以外は入街税を支払う必要がある。
だが、ギルドに所属している者は、ギルドに納めている会員費から一定額が税として国に支払われており、それによって各街を自由に行き来する事が可能となる。
また、聖職者も一部の税が免除される。
入街税もまた然りだ。
帝都に入って直ぐの広場。
そこでティーダがヒョイっと馬車から飛び降りた。
「では私はこの辺で。
エリーさん、ミレイさん、ルノアちゃんお世話になったッス」
「こちらこそ、賑やかで楽しい旅でしたわ」
「ティーダさん、また会いましょう」
「お元気で」
ブンブンと手を振るティーダと別れた私達は中央区に近い上等な宿にチェックインする。
3人部屋に身を移した私達は今後の予定について話し合う事にした。
部屋のソファに腰を下ろし、ルノアに紅茶を入れて貰い一息つく。
「わ、私までこんな良いお部屋に……本当に良いんでしょうか?」
「慣れなさい。私達はこれからこの帝都で商売を始めるのよ。
何処に誰の耳目が有るのか分からないわ。
下手に安宿に泊まっていると舐められるかも知れないでしょ?」
「は、はい」
「これから直ぐに動きますか?」
「いいえ、今日はこのままゆっくりと休みましょう。
明日は先行させた者達と連絡を取るとして……あと、ルーカス様にもコンタクトを取りましょう。
彼も今は帝都の子爵邸に居るはずですし」
「畏まりました」
この日、私達は宿でゆっくりと旅の疲れを癒す。
そして翌日、ルーカス様に面会を求める使者を送った私は、先行して帝都に入っていた商会員と合流し、彼らが選定していた物件を見て回っていた。
この帝都でのトレートル商会の顔となるのだ。
しっかりと吟味する必要がある。
今回、購入する予定なのはトレートル商会の帝都支部となる物件、そしてトレートル商会の商館となる物件の2つだ。
前者は主に事務手続きや会議、大きな商談などを行う拠点。
私が帝都に滞在する私邸も兼ねる予定だ。
顧客や同業者に対する見栄えなども考えると、それなりの建物でなければならない。
後者は実際にお客様が足を運んで商品を購入する販売店。
当然、見栄えは大事だが、こちらは更に立地も重要になってくる。
「ここはなかなか良いわね」
選定を行った商会員を伴って不動産屋の案内でいくつかの物件を見て回り、目に止まったのが目の前の屋敷である。
帝都に住む法衣貴族の屋敷や地方の大物貴族の別邸がある貴族街に近い高級住宅地。
そこの中心とは言えないが、それなりに利便性の良い場所に建てられた大きな屋敷だ。
元は何処かの男爵家が見栄で建てた別邸だったらしいが、維持費を捻出出来ずに手放したらしい。
多少手を入れる必要は有るが、なかなかの掘り出し物だ。
予算的には少しオーバーするが、これ程の物件、一度逃すと次の機会は得られないだろう。
一通り中を検めた私はその場で不動産屋と契約を結ぶ。
まだ小娘とすら言える私の即決振りに少し驚いた様な顔を浮かべるが、直ぐに笑顔で対応する不動産屋。
私の私邸を兼ねた拠点が決まったので、彼が操る馬車は商館候補の物件に向かって進み始めるのだった。
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(・ω・)ノシ




