王座のアデル
ユーティア帝国の都市の1つ、侵略軍に支配されたこの都市は、破壊された家屋や石畳に広がる血痕など、至る所に争いの痕跡が残されている。
都市を支配する者達は横暴で、食料や金品の強奪、強姦や暴行など、戦時国際法に反する行為を取り締まられる事もなく己の欲望を満たしていた。
生き残った都市の住人は、目をつけられ無い様に息を殺して生活していた。
「この無能共め!!!」
その都市の中心部、元は代官の屋敷であった場所に侵略軍の旗頭であるフリードの怒声が響き渡った。
屋敷の中でも最も上等なその部屋には、怒りで顔を歪ませるフリードと、その前に傅く2人の人間が居た。
「貴様らは俺が居なければ砦1つ守る事も出来ないのか!」
怒鳴りつけるフリードに、頭を垂れたままの蠍は黙り込む百足をチラリと見やり、謝罪を口にする。
「誠に申し訳ありません。
率いていた手勢では帝国軍の物量に……」
「言い訳など不要だ!結果を出せ、無能!」
「「………………」」
フリードはソファにドカリと腰を落とすと足を組み頬杖を突く。
「もう良い、さっさと失せろ。
レクセリン砦はこの俺が直々に軍を率いて再び攻め落としてやる。
無能な貴様らの尻拭いをしてやるんだ、感謝するんだな」
「はい、フリード殿下の慈悲に感謝致します」
虫でも払うかの様に手を振るフリードに、もう1度深く頭を下げた蠍と百足は部屋を出た。
「たっく、なんなんだべ、あの王子様は」
「あそこまで傲慢だと面白いでしょ?」
「腹立たしいだけだべ。殺してやりてぇだ」
「ダメよ。殿下のシナリオを違える訳には行かないでしょ」
「んだども……」
「あんなの、はいはい言っていれば良いのよ」
蠍はフリードの部屋を背後に百足の愚痴を聞きながら廊下を歩いて行った。
◇◆☆◆◇
アデルは、背後に武装させたオルトとフロンテを控えさせ、目の前に傅く男達を一段高くなった壇上の王座から見下ろしていた。
「面を上げよ」
顔を上げたのは上等な衣服を身に纏った男達だ。
アデルが命じて領地から呼び出した。
「答えを聞こうか。リナンド公爵、オーディル辺境伯」
「はっ!此度のブラート殿の暴挙はとても擁護出来ませぬ。
我がリナンド公爵家はアデル様の戴冠を支持致します」
「オーディル辺境伯家も同じ考えです」
アデルは2人に頷きを返す。
「うむ、今後は乱心されたブラートとフリードの征伐に出る故、貴公らの忠誠は直ぐに示されるだろう」
「お任せ下さい」
「王国の平和の為ならば、この命を以て戦いましょう」
「期待しているぞ」
控えていたエイワスに促されて2人が退室した後、アデルはふぅ、と息を吐き出した。
「これで国内の大きな力を持つ貴族は粗方まとめ上げたかな」
「そうですね。ブラートに着いた貴族は出兵した者以外は粛清しました。
あと残っているのは日和見の連中だけです。
属国もブラートに着いた国も多いですが、リシダ国とファーレン国は此方に着くとの事です」
「そう。後は戦場で決着を付けるだけだね」
「はい。既に諸侯軍の編成は出来ております」
「分かった。皆、よろしく頼むよ」
アデルが立ち上がると、エイワス達は跪き臣下の礼を取り、ニヤリと笑みを浮かべる。
「アデル陛下に勝利を捧げましょう」