帝都への道程
「お姉さん!エール、お代わりッス!」
「は〜い」
ティーダが声を掛けると犬人族の給仕が明るく返事をする。
あの荒れた領地を抜けて隣の領地に入ると街道もキチンと整備され、野盗も現れなくなった。
そしてようやくそれなりに大きな街に辿り着いた私達は宿屋兼酒場で少し早めの夕食を食べている。
「いや〜、生き返るッスねぇ〜。村の食堂ではこうは行かないッスよ」
ティーダは先程から、とても聖職者とは思えない様な呑みっぷりでエールをその小柄な体に流し込んでいる。
別にイブリス教の聖職者が飲酒を禁じられている訳では無いが、普通はあまり人前でガブガブと呑んだりするのは控える物なのだが……。
「でも助かったッス。
あの野盗共のお陰で随分と懐が暖まったッスよ」
「あら、もう換金されたのですか?」
「そりゃもう。街に着いて直ぐ。
エリーさん達が宿をとってくれている間に換金しておいたッス。
なかなかの金額になったッスよ。
ああ、勿論お金は山分けにするッス」
「いえ、換金したお金はシスターティーダが受け取って貰って構いませんわ」
「ええ!良いんッスか⁉︎」
「はい、お布施という事でお納め下さい」
「エ、エリーさぁん!!」
「ちょ、は、離れて下さい!鼻水が付きますわぁ!」
私の服に顔を埋めようとするティーダを引き剥がす横で、ミレイとルノアも久しぶりのまともな食事に舌鼓を打っていた。
「エリー会長、なんだか楽しそうですね」
「そうですね。エリー様には今まで同年代の気心知れた友人と言うものが居ませんでしたから……昔はいつも張り詰めた様な顔をしていました。ですが最近は日々、楽しそうに笑う事も増えましたね。
ルノアさん、コレも食べて見てください」
「あ、これ美味しいです」
「シロネと腸詰肉を煮込んだスープですね。
隠し味に、この街の特産品のミーカの実の果汁が入っている様ですよ」
「ミーカの実ですか。水分が多く傷みやすいので産地以外ではあまり出回らない果実ですね」
「はい。香りが良いので新しい化粧品に使えるかも知れません。
後でいくつか買っておきましょう」
騒がしい夕食は思いの外長く続くのだった。
◆◇★◇◆
「殿下!この様な事は不可能です、お考え直し下さい!」
壮年の文官が企画書を手に執務室にズカズカと入って来た。
その文官を疎ましげに睨みながらフリードは城下でも有名な菓子屋の高級クッキーを口に放り込む。
「騒がしいな、なんの話だ」
「殿下が提出されたこの企画案です!」
文官が企画書をフリードの目の前に差し出した。
「ん?……貧民区の炊き出しの案か?
コレのどこに問題が有ると言うのだ。
定期的にやっている事だろう」
「殿下…………予算報告書にお目を通して頂いているのでしょうか。
この様な無計画な炊き出しを続けては直ぐに国庫が干上がってしまいます」
「何を馬鹿な!あの女は毎週、貧民共に施しをしていただろうが」
「エリザベート様は炊き出しや施しをされる時は、全て自らの私財から予算を捻出されておりました。
国王陛下への献策以外で国庫に手を付けた事はございません。
それに加えてエリザベート様は貧困層の者達に仕事を斡旋して生活が安定する様に補助されておりました。
貧困層の救済とは、ただ何も考えずに食事を与えれば良いと言う物ではないのです」
「ちっ!なら炊き出しなど止めてしまえば良いだろう!!」
「で、殿下!お待ち下さい!」
「煩い!」
怒鳴りつけて執務室を出て行くフリードを文官が深いため息と共に見送った。
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(・ω・)ノシ