一方その頃:3体の悪魔
悪魔の存在を確認したティーダだが、目の前の魔物を無視する訳にはいかず、歯痒くも足止めを食らっていた。
獣型の魔物や飛行する魔物など、足の速い魔物に混ざりオーガやゴブリンの様な軍勢の中核を成す魔物も姿を見せ始めていた。
この広い荒野で、数を増やすばかりの魔物に対してティーダは1人。
当然、全ての魔物を狩り尽くす事など不可能で、既に多くの魔物がティーダを抜けて都市国家へと向かってしまっていた。
「ええい!鬱陶しいッスよ!!」
大量の魔力を纏わせて振るわれた純白の大鎌がティーダに群がっていた20体を越えるゴブリンの群れを一薙で斬り飛ばすが、直ぐに後ろから新たなゴブリンが現れる。
「「「うおぉぉお!!!!」」」
あまりの物量に、流石のティーダも焦りを感じてきた頃、都市国家のある方角から雄叫びが聞こえてきた。
「な、なんッスか⁉︎」
見れば、武装した者たちが武器を振り上げてティーダが防ぎ切れなかった魔物を討伐しながら近づいて来ていた。
「冒険者ッスか!」
「おう、シスター!待たせちまったな!」
冒険者達を率いて来たらしい男がティーダに近づき声を掛ける。
どうやらたまたま居合わせた上級冒険者らしい。
「助かったッスよ。正直1人でこの数は厳しかったッス」
「こんだけやれたら上等だろうが。それにそいつは神器だろ?なら俺たちはシスター程強かねぇ。
Aランク冒険者は俺だけだし、Bランク冒険者も3人だけだ」
「そうッスか。都市国家の守りはどうなってるんッスか?」
「そっちは衛兵を中心に下級冒険者や有志の者達で守りを固めている。
多少は問題無いだろうが、この魔物全てを受け止めるのは無理だ」
「ならやはり此処で数を減らさないとダメって事ッスね」
ティーダと冒険者の男は周囲のオークを倒しながら情報を交換する。
「魔物の中には変異種みたいな奴も混じっているから気をつけて欲しいッス」
「なに⁉︎そいつは不味いな。Cランク以下の奴では止められないかも知れねぇ。
シスター、俺達で変異種を倒さねぇとな」
男の提案にティーダは首を横に振る。
「もう一つ、良くない知らせがあるッス」
ティーダの鋭い視線にグレーターウルフにバトルアックスを叩きつけながら冒険者の男は息を呑む。
「魔物を率いてる悪魔の姿を見たッス」
「あ、悪魔⁉︎」
男が戦闘中だという事を一瞬忘れて驚きの声を上げる。
ティーダの様なイブリス教の上位者などは別として、一般人にとって悪魔とは、『そんな奴らが居るらしい』と言う様な曖昧で不確かな存在だ。
恐ろしい存在であると聞いた事はあるが見た事は無い。
それが一般的な人間の悪魔に対する知識である。
「ぐあぁ!!」
「な、なんぎぁあ!!」
冒険者の悲鳴が聞こえてくる。
「な、なんだ、あいつら⁉︎魔族……いや、違うな、あれが悪魔か?」
「そうッス!此処は私に任せるッス」
男にそう言い残したティーダは、冒険者に振り下ろされた剣を大鎌の柄で受け止めた。
「ん?なんだ貴様は?」
「悪魔に名乗る名前は無いッス!!」
ティーダが大鎌を一閃、二閃と振るうが、悪魔は剣を巧みに使い攻撃を受け流した。
(並の悪魔じゃ無いッスね。あの『伯爵二位』程では無いッスけど、おそらく爵位持ちの悪魔ッス)
ティーダの大鎌を捌いていた悪魔は不意に背後に跳んで距離を開けた。
「ん?」
虚を突かれたティーダが一瞬、隙を見せると、それを逃さず、左右から別の悪魔が槍を突き出した。
「ぐっ!」
なんとか躱すが、左の肩を抉られた。
「ほう、今のを躱すか」
「…………3対1は卑怯じゃないッスか?」
「我々は目的の為なら手段を選ぶつもりは無い」
対峙する悪魔を観察すると、衣服や武具に同様の紋章がある。
「《冥界の夜明け》ッスか」
「ほう、よく知っているな…………そうか、その大鎌の神器、貴様が伯爵閣下が仰っていた人間か」
「伯爵……アルトロスの事ッスか」
「ふむ、見たところ、貴様が此処の人間共の最高戦力だな。
大人しく消えて貰おうか!!」
3体の悪魔は連携し、ティーダへと斬りかかって来るのだった。