レクセリン砦⑥
エルザ達《鋭き切先》はお互いをカバーしつつ、バンデットワーウルフの群れから距離を取っていた。
しかし、バンデットワーウルフは、《鋭き切先》を獲物として認識しており、逃すつもりは無い。
ジリジリと後退する《鋭き切先》を半円形に広がった群れで飲み込む様に包囲していた。
バンデットワーウルフは、体長2メートル程の二足歩行の狼の魔物で、武器を器用に使いこなす、ともすれば獣人族の様な姿をしているが、体内に魔石を持ち、対話や意思疎通が不可能である為、魔物として分類されている。
その討伐難度は1体のみでCランク、この規模の群れならばAランクにもなる強敵である。
エルザは回復の要であるリサを中心に入れ隊列を組む。
「包囲を抜けるぞ!神器【不屈の大剣】」
エルザから溢れ出した魔力が瞬時に凝縮され、長身のエルザと比べても大きな大剣となる。
エルザの神器である【不屈の大剣】は炎を吹き上げたり、風を放ったりと言った特殊な攻撃技は使えない。
その刀身に宿す力は【身体強化】のみである。
その身体強化ですら、通常時では自力で身体強化のスキルを使った方が効果が高い有様である。
だが、【不屈の大剣】の身体強化は、エルザが窮地にある程、その身体強化は強力になって行く。
Cランクの魔物の群れに囲まれ、逃げる事も叶わないこの状況に、普段の身体強化の数倍の効果を受けたエルザは、様子見に突っ込んで来た若いバンデットワーウルフの槍を素手で掴み取り、バンデットワーウルフごと後続の群れに投げ返した。
「行くぞ、皆!【不屈の軍勢】」
エルザが【不屈の大剣】を掲げると、刀身に罅が走り、肉厚の大剣が光となって砕け散った。
エルザの神器から溢れ出したその光は、《鋭き切先》のパーティメンバー達に降り注ぐ。
この【スキル】こそが、神器による身体強化を仲間と共有するエルザの切り札である。
制限時間も短くなり、半日程、神器を使えなくなるが、その恩恵は計り知れない。
5人もの上級冒険者が、普段の数倍の身体強化を受け巧みな連携で戦うのだ。
「はぁ!」
エルザが剣を振るえば数体のバンデットワーウルフの胴体が輪切りにされ、背後に回ろうとするバンデットワーウルフはシシリーの矢が2体同時に貫く。
攻撃は全てサリナに受け止められ、受けた傷はリサの治癒魔法で瞬時に回復する。
慌てて体勢を立て直そうとするバンデットワーウルフだが、影の様に低く、駆け回るマルティの短剣と火属性魔法が混乱を収める事を許さない。
数々の死線を潜り抜けてきた《鋭き切先》の必勝の型だ。
勢いに任せてバンデットワーウルフの群れの左翼を突き破ったエルザ達は瞬時に転進し、群れの中央部の後方、長が居るだろう場所に向けて突撃する。
長を狙われていると気付いたバンデットワーウルフも、エルザ達をはばもうと捨て身で立ち塞がるが、強化されたマルティの魔法とシシリーの矢に討ち取られ、傷だらけになりながら無理矢理抜けてきたとしてもサリナの盾に阻まれる。
「終わりだ!」
群れの中央部を突き破った先、体毛が白く、仲間に守られる様にしているバンデットワーウルフをエルザは頭から一刀両断に斬り捨てた。
その後は、長を失い統率を無くしたバンデットワーウルフの群れを殲滅するだけだ。
エルザ達は物の数十分程で、バンデットワーウルフの死体を積み上げる事となるのだった。