レクセリン砦④
バアルは自分の身長の2倍は有るオーガキングと対峙していた。
オーガキングは通常種なら褐色の肌に額に2本の角を持っている。
しかし、バアルの目の前のオーガキングは黒い肌に入れ墨の様な赤い紋様が走っており、頭部には王冠の様な角が生えていた。
「こりゃあ、変異種ってヤツか」
バアルは警戒する様に呟くと、腰を落として拳を構えた。
オーガキング変異種がバアルを叩き潰すべく、その腕を振るうと、その拳はバチバチと雷を放ち、落雷の様な轟音を響かせる。
「ぐっ!」
オーガキング変異種の拳から紫電が走るのを目にした瞬間、受け流す為に差し出していた腕を引き、身体を捻って跳ぶ。
直撃は避けられたが、電撃がバアルの身体を焼いた。
「ちっ、厄介だな」
バアルは焦げた上着を脱ぎ捨て、再び拳を突き出す様に構える。
「ふっ!」
【縮地】を使いオーガキング変異種の背後を取る様に回り込み、魔力を纏わせた回し蹴りを叩き込む。
並のオーガなら、頭が千切れ飛ぶ程のバアルの蹴りだが、オーガキング変異種は僅かに揺らぐだけで、腕を振り回して反撃してくる。
バアルはオーガキング変異種の裏拳が当たる前に再び【縮地】で距離を取る。
「攻撃だけじゃねぇみてぇだな」
バアルはオーガキング変異種の首を蹴った自分の脚を視線だけで確認した。
ズボンには焼け焦げた跡が残り、そこから見えている肌は一部が黒く炭化している。
「ギブァアア!!!」
雄叫びを上げたオーガキングは全身に雷を纏いバアルに向かって駆け出した。
エルザは《鋭き切先》の仲間を指揮して魔物の群れを相手に戦っていた。
現在、相手にしているのはバンデットワーウルフの群れだ。
二足歩行する狼の魔物であり、体長はエルザよりも少し大きい。
「リサ退がれ!マルティはリサの護衛だ!
サリナ、私と前に出るぞ!シシリーは援護を!」
仲間の返事を聞きながらエルザは盾士のサリナと共に迫り来るバンデットワーウルフに向かって行く。
剣鉈を振り上げるバンデットワーウルフの前にサリナが飛び出し盾で剣鉈を受け止め、脇をすり抜けたエルザが一刀でバンデットワーウルフを斬り捨てた。
次々に襲い来るバンデットワーウルフをサリナが受け止めエルザが斬る。
サリナの盾を抜けそうになる者はシシリーの矢を受け、回り込んだ少数のバンデットワーウルフはマルティの短剣とリサの魔法で倒れる。
「き、切りがないよ」
「頑張るのよマルティ!」
「エルザ!後ろが不味い!」
「くっ!サリナ、一旦退がるぞ!」
「分かった!」
囲まれ始めていたエルザ達は、バンデットワーウルフの群れを一旦突破して抜け出す。
「グルルゥ!!」
バンデットワーウルフもエルザ達を獲物として認識したのか、大きな輪になり、ゆっくりと輪を狭めて行った。
群がる男達を返り討ちにした私達3人は、砦の周囲の魔物を他の冒険者達に任せ、砦の中に突入した。
「エリーさん、奴は何処に行ったんですかね?」
「セオリーとしては中心部でしょうね」
「それにしては人の気配が無いな。
偵察ではそれなりに兵士の姿が有った筈だが……」
システィアがそう言った時だ。
「うわぁぁあ!!!」
突然、正面の大扉が開き、鎧姿の兵士が3人、何かから逃げる様に駆け出して来た。
その兵士を追って姿を現したのは、全身に炎を纏った巨大なトカゲ、サラマンダーだ。
サラマンダーは兵士の1人を焼き殺し、もう1人をその大きな脚で叩き潰した。
「ひ、ひ、や、やめ……た、助け……あぁぁぁあ!!!」
残った1人も、私達に助けを求め手を伸ばしながらサラマンダーに食われてしまった。
「サラマンダーか、これは面倒だな」
「わたし、サラマンダーと戦うのは初めてです」
「来るわよ」
「ジァアアア!!!!」
サラマンダーは私達に向かって猛烈な勢いで火炎を吐き出した。