レクセリン砦③
フラフラと体を揺らしながら迫る不気味な男達に私はユウとシスティアと共に迫る。
広範囲魔法で一網打尽にも出来るのだが、砦を破壊してしまっては意味が無い。
フリューゲルを一閃し、手前の男の胴体を上下に分ける。
だが、なんと男は上半身だけになり血を吐き出しながら私の足を掴んだ。
「っ⁉︎」
人間離れした握力で私の足首を握る男をユウが大斧で叩き潰した。
「大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとう。中途半端はダメね。確実に頭を仕留めましょう」
次々と襲いかかってくる男達の首を斬り落として行く。
「やっぱり変ですね」
「そうだな。コイツらには意識の様な物を感じない。薬か魔法か分からないが、洗脳されて強制的に戦わせられている様だ……【泥沼】」
システィアが男達の足下を崩し、動きが鈍った所を私とユウが仕留めて行く。
負ける事は無いが、油断は出来ない。
「グゴォドア!!!」
横合いから飛び込んできた地竜にユウが直ぐに大斧を振り上げ、魔力を幾つもの層にする様に刃に纏わせる。
「【遍断ち】」
身体ごと回転させる様に大斧を振るったユウのスキルは、強靭な鱗と強力な身体強化を持つ地竜を縦に真っ二つにし、一撃で地に沈めた。
あの魔力を層にするスキルは凝縮した魔力による武器強化を効率化した物だろう。
ユウは簡単にやって見せたが、魔力の凝縮、同時複数の魔力操作どちらも高等技術だ。
1つなら私にも可能だが、同時は難しいだろう。
ユウは何事もなかったかの様に再び男達との戦闘を再開させ、片手間に考察する。
「多分、薬と魔法の併用ですかね。薬で意思を奪って強力な催眠魔法を掛けたのでしょうか?」
「並の技量じゃない。何かしらのマジックアイテムも使っているのかも知れないな」
2人の言う通り、この男達は妙だ。
体格は良く、筋肉も有るが、戦う為に鍛えた身体ではない。
なるほど、ユウとシスティアがいう様に、農民を洗脳して痛みや恐怖、意識を消したと考えるなら納得できる。
あの百足とか言う男がやったのならば、まさに外道の所業だ。
「一般人、それも帝国の民の可能性も有るけど……今は勝利を優先するわ」
「分かってます」
「嫌な仕事だ。後であの男は必ず殺す」
ユウやシスティアもトップクラスの冒険者だ。
感情では納得出来てなくても躊躇はしない。
それだけこの男達は危険な存在なのだ。
私は名も知らぬ哀れな男の首を斬り続けるのだった。
◇◆☆◆◇
振り下ろされる巨大な棍棒を手にした曲刀で受け流し、返す刀で一つ目の巨人、サイクロプスの肩から脇に掛けて切り裂いたイーグレットは、遠目に見える戦場に視線を向け、すぐ隣で槍を振るうグレンに声を掛ける。
「見ろ、グレアム。百足が出てきた様だぞ」
「……………………誰が聞いているか分からないのです。グレンとお呼び下さい」
「お前こそ、喋れないって設定だろ?」
「…………」
からかう様に唇を尖らせるイーグレットに、グレンは少し疲れた様なため息を吐き出す。
勿論わざとだろう。
「アリスの方はどうなっているんだ?」
「梟が付いているが、やはりガードが固いですね。
子供達だけなら問題無いですが、あの従者は難しいでしょう。身内以外の全てを対象に警戒しています。
腕も立つ様で、私であっても彼女を倒してアリスを拐うまでの間にエリー・レイスに気付かれるでしょうね」
「回収するのはまだ難しいな。なら隙を見せられるまで、信用させるとしようか」
イーグレットは魔力を込めた曲刀シャムシールをくるくると弄びながら、向かってくる魔物を次々に殺して行くのだった。