レクセリン砦②
レクセリン砦の周囲の魔物の半数近くの数を討伐した頃、砦に近い場所で戦っていた冒険者パーティに異変が起こった。
順調に魔物を討伐していたパーティが全滅したのだ。
それも、魔物を相手にしてでは無い。
「なっ!」
その光景に私は目を丸くした。
いや、私だけでは無い。
その光景を見た者は皆、驚きを隠さなかった。
屈強な冒険者達を素手で捻り殺したのは、どう見ても田舎の農村に居るただの農民にしか見えなかったのだ。
その男はフラフラと戦場に現れたかと思うと、猛スピードで冒険者に迫り、素手で首を掴み上げ肩に手を置くと、首を引き抜く様に冒険者を殺し、驚いたパーティメンバーの冒険者にも同様に襲い掛かった。
拳で革鎧ごと胴体を貫かれた冒険者、蹴りで首を折られた冒険者、剣で反撃を加えたが、全く怯む事なく喉を潰された冒険者。
だが、農民の方もただでは済んでいない。
革鎧を貫いた腕は拳が砕け、折れた骨が腕から飛び出しており、蹴り脚はドス黒く腫れ上がり、剣で斬りつけられた腕は皮一枚で繋がっていて、ブラブラと揺れている。
しかし、悲鳴を上げるどころか、痛がる素振りも見せず、近くの冒険者へ向かって襲い掛かろうとして斬り殺された。
「な、なんだったんですか?」
「分からないわ。でも戦闘訓練を受けた者の動きじゃなかったと思うのだけれど……。
ユウが気味悪そうに言うが、私から返せるのはその程度の答えだけだ。
「お、おい、アレを見ろ!」
少し離れたところからエルザが声を上げる。
エルザが指し示す方を見ると、先程の農民の様な男達がフラフラと現れたのだ。
「お、おいどうする⁉︎」
私は得体の知れない相手に動揺する冒険者を一喝する。
「敵よ!殺しなさい!」
私の指示に、一瞬はっとした様子の冒険者達が妙な男達に向かって行った。
男達は痛みや恐怖と言った感情が無いのか、自分の身の損傷を省みる事なく冒険者達を殺そうと向かって来た。
その為、数人の犠牲を出してしまったが、何とか男達を討ち取る事が出来た。
パチパチパチ
男達の死体が積み上がり、血の匂いが広がる戦場に不釣り合いな拍手の音が鳴り響いた。
見れば先程の男達と変わらない、特に特徴の様なものが無い男が両の手を打ち鳴らしていた。
「何者?」
「オラは『百足』っつーもんだ。
悪いけんど、オメェらには死んでもらうだよ」
「面白い冗談ね。さっきの男達はなに?
薬か何かで操っていたの?」
「まぁそんなとこだぁ」
男は頷き両手を広げる。
「痛みを感じない、死を恐れない兵士。
まさに理想的な兵士だべよ」
男がニヤニヤと笑うと砦の門が開き、再び男達がフラフラと現れる。
その数、およそ100人を超える程だ。
「さぁ、どうするべか?」
「ぐっ、ユウ、システィア、私と来て!バアル、エルザは傭兵と冒険者に指示をだして魔物の対処を」
こちらに人を割きすぎると魔物に抜けられ帝国軍とレブリック辺境伯軍は背後から襲撃を受ける事になる。
男達への対処は最小限の人数でこなすしか無い。
私はユウとシスティアの2人を連れて、砦の中へ逃げ込んだ百足と入れ替わる様に出てきた、焦点の定まらない目の男達と対峙するのだった。