一方その頃:都市国家の危機
非常事態を告げる鐘の音を聞いて宿を飛び出したティーダは、街の防壁の僅かな罅や欠けた場所を足場に防壁の上まで駆け上がった。
そして防壁から見える光景に、ティーダは息を呑む。
視線の先、荒野の向こうに砂漠が広がる地平の先から砂煙を上げながら大量の魔物が向かって来ていたのだ。
「な、なんッスかアレは⁉︎」
まだ砂粒の様に見えるだけだが、直ぐにこの都市国家へと、到達するだろう。
以前の変異種の魔物の襲撃とは比べ物にならない被害が出る。
ティーダは僅かな迷いも無く防壁を飛び降りると、魔物の軍勢に向かって走り出す。
少しでも数を減らしておかなければ、都市国家に居る冒険者や兵士では対応出来ない数だ。
ティーダは戦いやすい開けた場所に陣取ると、直ぐに神器を作り出し構えた。
ティーダの神器【神の恵みを刈り取る刃】は斬り殺した相手の魔力を奪って自己強化や治癒を行う力を有している。
多数の敵を相手にするのに有利な能力なのだが、広範囲の敵を攻撃するのには向いていない。
スキルや魔法を使えば戦えるが、攻撃力で言えば神器での直接攻撃の方が強力だ。
更に【神の恵みを刈り取る刃】の発動条件の制限もある。
相手の魔力を奪うには神器の刃で止めを刺す必要がある。
つまり、ティーダ1人で全ての魔物を押し留める事は不可能なのだ。
必ず抜けられるだろう。
「はぁ、損な役回りッスね」
ティーダは柄から刃まで真っ白な大鎌を一閃する。
移動速度が速く、先行していた砂色の大きな狼の魔物、Dランクのグレーターサンドウルフを3匹纏めて斬り捨てる。
そしてすかさず奪った魔力を身体強化に回し、高く跳躍すると上空から爪を振り下ろそうとしていたデザートファルコンを縦に両断する。
すると地面を突き破って巨大なミミズの様な魔物、サンドワームが無数の歯が生えた口を開き、空中に跳び上がっているティーダを丸呑みにしようと身体を伸ばした。
「うげ⁉︎キモいッス!」
ティーダはデザートファルコンの魔力を自らの魔力に上乗せし魔法を強化する。
「【聖なる矢】」
放たれた聖なる力を宿した光の矢は、通常の矢よりも大きく数も多く、サンドワームの口へと飲み込まれて行った。
すると体内に魔法を受けたサンドワームは身を捩って苦しみ、その身体を蹴り体勢を整えたティーダは、地面に戻るまでの数瞬間でサンドワームを斬りつける。
「む、浅いッスね」
再び地に足をつけたティーダは、真っ白な大鎌を大きく振りかぶり、全力で振り切る。
魔力を纏った刃は白い光閃となりサンドワームを真っ二つにした。
次々に襲いかかる魔物を斬り殺し、時に魔法での広範囲の攻撃を交えながら戦うティーダの目に、魔物の本隊と言える集団が見えて来た。
「な、あ、アレは⁉︎」
ティーダが驚きで目を見開いた。
明らかに変異種だと思われる魔物が数体混じっている事にも驚いたが、何より驚いたのはその魔物を率いる様に進む3体の存在だ。
人型で、頭部に角を持つ存在。
「なんで悪魔が居るんッスか⁉︎」