ミーティング①
私達がティーダから聞いたモンスターテイマーの情報をルーカス様に伝えた後、話は再びフリード軍の情報に戻った。
「フリード軍が進行して来たルートが不自然ですね」
「ああ、ある程度の安全が確保されているルートを避け、魔物の遭遇率の高い地域を突っ切って侵攻している」
「これも、モンスターテイマーの仕業でしょうか?」
「そうね、高い実力を持つモンスターテイマーなら魔物避けや誘導の技術にも長けているでしょう」
「俺も同意見だな。交易路にもなっているルートは厳重な監視や警備が置かれている。
それを潜り抜ける為に危険地帯を進軍ルートにしたのだろうな。
危険地帯を突破したフリード軍は道中の村や町で物資を略奪しながら進軍し、レブリック辺境伯領の都市を蹂躙、更に隣のハッフル子爵領との領境に近い都市を落として占領している。
現在は強行軍を行った後だからか、占領した都市を拠点に軍を整えている様だ」
「なるほど……ルーカス様は今後はどの様な動きを?」
「もう数日でオーキスト殿下が率いる帝国軍が合流する。
それを待ってフリード軍の征伐に向かう。
君達、義勇軍もそれに合流して欲しい」
「分かりました。オーキスト殿下が合流したらお知らせ下さい」
「分かった」
ルーカス様の所を辞してトレートル商会の商館兼屋敷に戻った私は、執務室で商売関係の報告を受けたり、書類を確認して過ごしていた。
仕事がある程度落ち着いたのは既に陽が落ちた後であった。
机の上に積まれた書類をミーシャやルノアが別の部署へと持ち出した時、窓から私が【怠惰の魔導書】で召喚したセイントバードが戻って来た。
このセイントバードは私が手紙と荷物を持たせて送り出したものだ。
そのセイントバードが手紙の返事を持って戻って来たのだ。
その手紙を一読した私は、隣で決算書を整理していたミレイにアリス、ルノア、ミーシャの3人を呼んで来る様に頼んだ。
「どうしたの、ママ?」
「何かあったのですか?」
「ええ、3人とも、コレを受け取って頂戴」
私は【強欲の魔導書】から3本のスクロールを取り出してアリス達の前に置いた。
「これ……スクロールですか?」
「ええ、【転移】のスクロールよ」
私の言葉にルノアとミーシャは目を丸くし、アリスは小首を傾げた。
【転移】のスクロールは希少な物だ。
対となるスクロールで予め転移先を設定しておく必要があるが、要人の緊急退避や上級冒険者などの命綱など、その需要は大きい。
この3本も私が念のために集めて置いたものだ。
「3人とも、この戦争の間は常にこのスクロールを携帯しておきなさい。
命が危ないと思った瞬間、もしくは私かミレイが使う様に指示した瞬間、迷わず発動させること。
転移先はコーバット侯爵領のケレバンの街、ヒルデの所に設定してあるわ」
帝都を出る時に、対となるスクロールともしもの時の3人の保護を頼んだ手紙をセイントバードに持たせてヒルデの元に送って置いたのだ。
先程、保護の了承と転移先の設定が完了したとの返事が届いた。
「それと、此処までもそうだったと思うけど、戦地では今まで以上にアリスから目を離さないでね。
私が個人的に雇った護衛を付けるつもりだけど、最低でもルノアとミーシャのどちらかはアリスと一緒に居て頂戴」
「はい、会長」
「お任せください、エリー様」
これでアリス達の身の安全に関して出来る限りの手は打った。
何が起こるか分からない帝都に置いておくよりは安全な筈だ。
◇◆☆◆◇
「愚かな選択としか言えませんね」
アデルから会議の話を聞いたエイワスは言葉短く吐き捨てた。
「ボクも同意見だよ。
目端の利く者やボクが戻っていた事に気付いていた情報に長けた者など、数人の大臣や重臣はボクに賛同してくれたけど、それでも少数派だ。
そこに父上が進軍を押したのがトドメになり、国の方針は決まってしまった」
「何故、国王陛下や宰相閣下はその様な決断をしたのでしょうか?」
マオレンが苦い顔をしながら疑問をなげる。
「父上……宰相の判断は単純に国の存続を考えた判断ですね。
父上は国その物を守ろうと考えている。
民を1番に考えているアデル殿下との相違はこの一点でしょう。
此処で帝国に降れば国力が低下し、帝国に頭を押さえられてしまいます。
そうなれば王国の存続にまで関わるでしょうからね」
「陛下の考えはもっと甘いよ。
このままいけば兄上を処刑しなければならない。
帝国との和解には兄上の首は不可欠だからね。
なら、此処で無理矢理にでも功績をつくり、王命に逆らって城を脱走し、帝国との条約を反故にした罪と相殺させて、生涯幽閉くらいに落とし込みたいのだろう。
父上は昔から兄上に甘いんだ」
アデルは肩をすくめて見せ、マオレンが淹れた紅茶で口を湿らせる。
「さて、以上を踏まえてボクの計画を伝えよう」
そしてアデルは直属の臣下達に計画を伝えた。
反対意見も有ったが、アデルはそれらを認めなかった。
民を守るにはこれしか方法が無い、とアデルの身を案じて反対する臣下を黙らせたのだ。
アデルは複雑な表情の臣下達を見回し、敢えて和やかに笑って見せる。
「さぁ……戦争だ」