義勇軍②
宮廷に赴き、正式に義勇軍の軍団長としての任命書を受け取った私は、物資の集積や、主なメンバーとの打ち合わせを数日で終わらせて帝都の外に集まった軍勢を率いて行軍を開始していた。
今回の義勇軍は総勢、約1700人。
内訳はDランク以上の冒険者約600人、傭兵約900人、その他、狩人や用心棒、武芸者などの義勇兵約100人。
そして、兵站や予備の武具、医薬品などの軍事物資の運搬や雑用を行う後方要員(主にEランク以下の冒険者や小規模な傭兵団)が約100人だ。
流石にこれだけの人数の物資を私の【強欲の魔導書】に収納しておく事は難しい。
量は問題ないのだけれど、取り出して配布するのに非常に効率が悪いのだ。
その為、馬車での物資の運搬が必要となる。
「エリー会長、まずはレブリック辺境伯領の領都に向かうのですよね?」
「ええ、現在前線の指揮を取っているルーカス様や私達の後に帝都を出る筈の帝国軍と合流してから戦地に向かう事になるわ」
「は、はい」
ルノアは緊張している様だった。
当然か、野盗や誘拐犯などとの戦闘経験は有るが、今度の戦いは本物の戦争だ。
比較的安全な後方に置くとしても恐怖を感じるだろう。
お昼寝中のアリスは別として、ミーシャもルノアほどではないが、緊張している様だ。
ルノアの両親が居るレブリック辺境伯領の領都に残す事も考えたが、帝都に残すのと同じリスクが有るので出来なかった。
アデルは私を危険視している。
エイワス兄様の行動からそれは明らかだ。
故に、私の動きを縛る人質になり得るアリス達を狙って来る可能性は十分にあるのだ。
イーグレットと相談した私は、その結論に至った。
今回の戦争にアデルがどう関わっているのかは分からない。
だが、王国がアデルと私の契約に反して攻め込んで来たのは事実だ。
アデルの考えがどうであれ、こうなってしまってはもう無傷での和解はあり得ない。
「…………戦争ね」
◇◆☆◆◇
「今すぐ兄上を捕縛して帝国に謝罪と和解を申し入れるべきです!」
アデルは会議室の机に両手を強く叩きつけた。
「ですがアデル殿下、既にフリード殿下が率いる軍は帝国の都市や村々を攻め落としております。
賠償金はかなりの額になりましょう」
「しかり、ならばフリード殿下に援軍を出し帝国の領土を切り取る方が利が有るのではないか?」
「ふむ、フリード殿下の軍は優勢らしいですからな」
大臣達の発言にアデルはギリリと歯を鳴らす。
「今は帝国軍が出て居ないだけです!
このまま帝国の被害が拡大すれば止められなくなります!
兄上の軍を離反軍として処罰するべきです!」
「アデル殿下、それは王太子である兄君を討つ事になるのですよ」
「落ち着いて下さい、アデル殿下。
向こうが国軍を出すのなら、我々も国軍をフリード殿下への援軍に出せばよろしいのです」
「……っ⁉︎」
大臣はアデルの意見をそう大きく捉えない。
これは今までアデルが自らの存在を隠し、フリードの名前で政策を行っていた弊害だった。
アデルの存在を知っていたのは国王と宰相、そしてアデルが選んだ直属の臣下くらいだ。
罪や恨みと纏めてフリードを切り捨てる予定だったのが仇となってしまった。
大臣達からみると、今のアデルは突然帰って来た第二王位継承者が、第一王位継承者である兄を排除しようとしている様に見えているだろう。
「陛下!宰相殿!進軍などと言う馬鹿な真似はお止め下さい!
確かに賠償は厳しい物となるでしょうが、このまま全面戦争となれば民への被害は甚大な物となります!」
大臣の説得は難しいと判断したアデルは、ブラート王と宰相であるジークに矛先を向ける。
「…………私は進軍に賛成です」
「ジーク殿!」
「アデル殿下。フリード殿下は既に帝国の中まで食い込んでおります。
此処で引いて賠償となれば王国の衰退は明らかです」
「しかし、それでは民が!」
「国が滅びれば民も苦しむ事になります。
それに、連綿と続くこのハルドリア王国の歴史を終わらせる事は出来ません。陛下、ご決断を」
ジークが話を振ると、ずっと腕を組んで瞑目していたブラートが口を開いた。
「………………帝国に向けて進軍する」
「陛下!!」
「これは決定だ。
フリードが優勢に事を進めているのは事実。
この機に帝国を叩く」
その後もアデルは戦争回避を訴えたが、ブラート王を翻意させる事は叶わなかった。