帝都の祝祭⑦
「遅くなって済まぬ。
貴殿らの奮戦に感謝と敬意を」
マティアス殿はノーライフキングを睨みながら短く私達を労った。
「騎士団総長のマティアス殿か……正直助かったな」
「噂の帝国最強の騎士様か」
「…………」
システィアとイーグレットは初老の騎士の登場に安堵の表情を浮かべた。
マティアス・ロードストスは数々の戦争や討伐で活躍した歴戦の勇士だ。
全盛期の頃の実力はSランク冒険者に匹敵すると言われている。
既に老齢に達しており、全盛期は過ぎてしまっているが、それでも並の冒険者や騎士では足下にも及ばないだろう。
私も戦闘体勢のマティアス殿の姿を見るのは初めてだけれど、実際に目にするとその実力がよく分かる。
少なくとも私は正面からでは、まず勝てないと思う。
マティアス殿を警戒しているのか、ノーライフキングはジリジリと距離を取ろうとし、更に撒き散らしていた瘴気を再び自身の下へと集めていた。
「あいつ⁉︎」
ノーライフキングは集めた瘴気を核に、死体やアンデッドを集め、ユウが戦っていたジャイアントスケルトンを超える程の巨大な魔物を生み出そうとしていた。
「おのれ……我らが守護すべき帝国臣民をあの様な化け物に変えるとは」
マティアス殿は額に皺を寄せてノーライフキングを睨みつける。
「あのノーライフキングは我が相手をしよう。済まぬが向こうは貴殿らに任せても良いだろうか」
「ええ、構いませんわ」
「随分と大きいな」
「…………」
「報酬は貰えるのだろう?」
ノーライフキングに対峙するのはマティアス殿に任せ、私達はノーライフキングが新たに作り出したアンデッド、スケルトンドラゴンを相手にする事になった。
スケルトンドラゴンが身体を震わせ、大きく顎門を開き威嚇する。
肉と声帯が有れば雄叫びが轟音となって私達に降り注いでいただろう。
スケルトンドラゴンがその巨体に似合わない素早さで身体を半回転させ、骨で出来た尾を叩きつける。
一斉にその場を跳びのいた私達はスケルトンドラゴンに武器を向ける。
【暴食の魔導書】を使い10発以上の上級魔法を叩き込む。
更に両手にシャムシールを構えたイーグレットと風を纏って加速したグレンがスケルトンドラゴンとの距離を詰め、それぞれが骨組みだけの翼を砕き落とす。
カタカタ!
スケルトンドラゴンが大きく口を開く。
「ブレスが来るわ!」
「任せろ!【泥巨人】」
システィアが地面に手を突くと、瞬く間に石畳が泥へと変わり、そこから泥で出来た巨大なゴーレムの腕が伸びスケルトンドラゴンの首を掴んで顔を空へと向けた。
スケルトンドラゴンの口から放たれた瘴気のブレスは雲を突き抜けて空へと消える。
そして腕だけでは無く地面から這い出る様に姿を見せた泥の巨人はスケルトンドラゴンを組み伏せようと掴みかかる。
「チャンスだ!行くぞグレン!」
「…………」
胴体を抱える様に押さえ込まれたスケルトンドラゴンにイーグレットとグレンが駆け寄り、肋骨を砕きながら頭へと迫り、グレンは首の太い骨にハルバードを叩き砕き、イーグレットは牙の半数を斬り落とした。
「【大地の檻】【雷の豪雨】【紅蓮の竜巻】」
イーグレットとグレンが離れた所を狙って魔法を撃ち込む。
巨大な石柱でスケルトンドラゴンを囲み、雷雨と火災旋風で泥の巨人ごと破壊する。
「あれがエリーの神器の能力か。まるで天変地異だな」
スケルトンドラゴンの骨の身体を砕き焼き尽くす私の魔法を見てイーグレットが頬を引き攣らせながら言った。
「流石にアレは耐えられないだろう。
マティアス殿はどうした?」
システィアがマティアス殿とノーライフキングの姿を探す。
先程まで居た場所は見る影もなく破壊されており、マティアス殿とノーライフキングの姿は無い。
私は魔力を探ると、猛スピードで移動しながらぶつかり合う2つの魔力を見つけた。
「あそこよ」
私が視線を向けると、所々に血を流し、鎧の一部が砕かれたマティアス殿が空中で光り輝く剣を振り上げ、ノーライフキングに振り下ろす所だった。