帝都への障害
「へっへっへ、おいおいお嬢ちゃん達、危ないなぁ。こんな所を護衛も付けずに移動するなんてなぁ。
おじさん達みたいな奴らが出るからよぉ」
男の言葉に周囲の野盗達から下品な笑いが上がる。
「エ、エリー会長……」
「大丈夫よ」
私は震えるルノアの頭を撫でてから馬車の荷台から軽やかに飛び降りた。
「ミレイ、ルノアを守ってて」
「畏まりました」
ミレイはルノアを抱きかかえて馬車から降りると、馬車を背にする様にルノアを庇って短剣を構えた。
「あん?なんだいお嬢ちゃん。
まさかお嬢ちゃん1人で俺たちを相手にするつもりか?」
「ええ、ご不満かしら?」
「はっはっは、いやいやお嬢ちゃんみてぇな上玉はなかなか居ねぇよ。
まぁ、心配しなくても3人とも可愛がってやるぜ」
再び下品な笑いを上げる野盗達。
「あらそう」
そんな奴らに私は軽く指を振る。
その動きに呼応する様に地面から鋭く尖った氷の刺が突き出し、弓を手にした野盗4人を貫いた。
水属性に分類される【氷棘】だ。
「な⁉︎」
「うわぁ!」
「ま、魔法だ!しかも無詠唱、上級魔道士だぞ!」
「くそ!囲め!魔法を使わせるな!」
頭目らしき男の指示で野盗達は剣を振り上げて迫って来る。
「悪くない判断ね。判断だけは」
私は腰に帯びた剣を抜き放つ。
耐久性を捨てて斬れ味を追求した細剣は、迫っていた3人の野盗を革鎧や剣ごと、なんの抵抗もなく両断する。
この細剣は城の宝物庫に納められていた宝剣。
叙事詩級の魔法武器、銘は『翼を持つ者』
数年前の戦争で私が立案した作戦で帝国軍を退けた時に、ブラート王から下賜された物だ。
武器や道具の品質にはいくつかの段階があり、下から《粗悪級》《低級》《中級》《高級》《最高級》と続き、此処までが一般的な店などで普通に出回る品。
そして遺跡やダンジョンから稀に見つかる古代の遺産《遺物級》
数々の逸話が残る名品《民話級》《寓話級》《叙事詩級》
誰もが知る様な奇跡の逸品《伝説級》
そして女神の手によって作られたと言われる《神話級》
この翼を持つ者は叙事詩級の名剣。
まさに国宝と言える品なのだ。
正直、野盗なんぞに使うのは勿体ないが、まぁ良いか。
「な、なんだよ!くそ!」
「ひぃ!」
一瞬で仲間を殺された野盗が浮き足立つ。
「あら、随分と余裕なのね」
足下に魔力を込めて、肉眼で捉えられない程の高速で移動する歩法【縮地】を使い呑気に悪態を吐いている野盗のすぐ横に踏み込む。
「え?」
間抜けな顔をした野盗の首を刎ねる。
これで残りは1人。
「ひっ!ま、まって、まってくれ!こ、降参だ!降参する!」
「降参?」
「ああ!お、俺はただの農民だったんだ!でも税を払ったら生活出来なくて、仕方なくて……」
「別に言い訳は要らないわ。
どんな理由があろうと貴方は野盗、私は商人として野盗を許す気は無いわ」
「ま、まてよ!もうこんな事はしない!約束する!だからでゅ!」
戯言を繰り返す野盗の喉を貫く。
「ご、ぐぅ、ばぁ……」
野盗は血の泡を吹き悶え苦しみながら死んだ。
ミレイの方を見ると足元に2人の野盗が倒れているが、ミレイとルノアに怪我は無い様だ。
「お、終わったんですか?」
「ええ、怪我は無いわね」
「はい。あの……こ、殺したんですよね?」
「殺したわよ。
……ルノア。野盗はゴブリンやオークと同じよ。
奴らは商人が懸命に稼いだお金を奪うの。時には命ごとね。
情けを掛けて逃せば別の人が襲われる。
だから野盗は見つけ次第確実に殺すのが鉄則よ。
貴女にもいずれ戦い方を教えてあげるわ。
最低限、身を守れるくらいには強くなって貰うから、いざと言う時には躊躇ってはダメよ」
「は、はい!」
野盗の死体を手早く始末した私達は再び馬車を走らせ始めた。
そして野盗を撃退した翌日、順調に街道を進んでいた私達だが、昼を少し過ぎた頃だ。
「エリー様」
暇な移動時間を利用してルノアに勉強を教えていた私に御者台のミレイが声を掛けた。
「どうしたの?」
「あれを」
ミレイの視線の先を見ると、こちらに手を振る人影が有った。
「ふむ、便乗者か」
馬車の時間が合わなかったり、予算の都合がつかなかったり、何かしらの事情で徒歩で移動している旅人が、多少の金銭を払い通りすがりの馬車に乗せて貰う事は偶に有る事だ。
それが冒険者や傭兵なら道中の護衛をする代わりに乗せて貰う事もある。
だが野盗や、犯罪者の可能性もあるので無視する者も多い。
「……停めて頂戴」
私は少し考えた後、ミレイに馬車を停車させた。
いくら私とミレイが腕に自信があるとは言え、こちらは女3人旅。それに戦えないルノアも居る。
これが怪しい風体の者や男の冒険者などなら無視したが、その便乗者は若い女性。
それも修道服を身に纏い、聖職者の証であるイブリス教の紋章が入った魔除けを身に着けたシスターだったのだ。
流石に無視するのは外聞が悪いわよね。
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(・ω・)ノシ