帝国の祝祭⑥
ノーライフキングへの道を塞ぐアンデッドはユウとエルザが引き受けてくれた。
その上で群がるゾンビやスケルトンをイーグレットとグレンが薙ぎ払ってくれる。
複数の【泥人形】を作り出しノーライフキングの攻撃を凌いでいたAランク冒険者、泥のシスティアの横に並び立つ。
「さっきは助かったわ」
「なに、災害クラスの魔物を相手に有能そうな味方を失いたくなかっただけさ」
「周囲のアンデッドに上位種が出始めたわ。
時間が無い。協力して貰えるかしら?」
「良いだろう」
システィアと短く会話を交わした私は、イーグレットとグレンの援護を受けて再びノーライフキングへと斬りかかった。
私の剣を躱したノーライフキングがカウンターとして刃を向けるが、割り込んで来たグレンのハルバードが受け止める。
更にイーグレットがノーライフキングの首を狙うが、それを身体を霊体化しイーグレットの背後に回り込む。
「【泥沼】」
ノーライフキングが実体化した瞬間、その脚を泥が絡め取り地面へと縛りつける。
「はっ!」
動きを止めた所にフリューゲルを一閃。
ノーライフキングが手にしていた禍々しい剣を中心から切断し、肩の骨を斬る。
しかしノーライフキングは動きを止める事はなく、全身から瘴気を吹き出し、周囲に居た私達は距離を取らざるを得なかった。
その隙にノーライフキングは瘴気の塊を飛ばし、その1つはユウが居る辺りで周りのアンデッドを吸収して巨大な骸骨、ジャイアントスケルトンを創り出す。
「不味いな」
「アンデッドが広場から溢れ出すぞ!」
ノーライフキングの瘴気を浴びて強化されたアンデッドが戦っている人々の包囲を突破して広場から溢れ出しそうになっていた。
その光景に戦意を喪失する者も現れ始めている。
「士気が持たないわね」
倒しても倒しても復活するアンデッドとの戦いは体力と共に精神力も大きく消費する。
こちら側の戦線が崩壊するのは時間の問題だ。
「恐れるな!!!」
その時、広場に声が響き渡った。
声の主は目立つ鎧を身に着けた青年だった。
「アレは……オーキスト殿下?」
青年はユーティア帝国の皇太子、オーキスト・ユーティアだった。
オーキスト殿下はよく通るその声で告げる。
「恐れるな、騎士達よ!我らの背には守るべき民が居るのだ!
そして勇敢なる冒険者や傭兵達、義勇の心を持つ者達よ!
帝都を守る為に剣を手にしたその勇姿、このユーティア帝国皇太子、オーキスト・ユーティアがしかと心に書き留めた!
ノーライフキング討伐の暁には、必ずその献身に報いると約束しよう!
さぁ英雄達よ!その名を帝国の歴史に刻め!」
オーキストの演説に地鳴りの様な歓声が上がる。
剣を手放していた騎士や兵士は再び剣を構え、報酬と栄誉を約束された冒険者や傭兵は気合が入る。
「士気は何とかなりそうね」
「そうだな、報酬は何処に請求するべきかと思っていたが、どうやら帝国が払ってくれる様で安心したよ」
システィアが肩をすくめながら戯けて見せる。
更にイーグレットはシャムシールの背で自分の肩をトントンと叩きながら問いかけて来るので私も軽口で返す。
「なぁ、エリー。オーキスト殿下の言う報酬ってヤツは商人でも貰えるのかな?」
「活躍すれば貰えると思うわよ」
そんな会話をしながらも、私達はノーライフキングと何度も刃を交える。
瘴気から生成している禍々しい剣は何度叩き折っても無駄な様で、直ぐに別の剣を作り出している。
そんな状況を変えたのは私達の戦いに参戦した新たな戦力だった。
それは首の無い黒馬に跨った首の無い漆黒の騎士だ。
「ちっ!デュラハンまで現れたか」
イーグレットが舌打ちしながらシャムシールを振るがデュラハンは大楯で受け止めて弾き飛ばす。
「ぐっ⁉︎」
「イーグレット!」
「……大丈夫だ!」
デュラハンはノーライフキングに次ぐ最上位アンデッドの一種だ。
いよいよ本当に危険な状況になって来たわね。
私とイーグレットはデュラハンの参戦に気付くと同時に神器を生成する。
デュラハンとノーライフキングが合流して連携し始める前に仕留めなければ、と少し無理をしてでも仕掛けるつもりで踏み出そうとした私達だったが、更に戦線に加わった騎士が瞬きの間でデュラハンを細切れにした事で状況がまた一変する事になる。
「あ、貴方は……」
私はその騎士を知っていた。
ハルドリア王国とユーティア帝国の戦争が終結して最初の交流パーティの時だ。
戦後直ぐと言う事で非常に危険な時期のパーティで、常に皇帝側に侍り守護していた初老の騎士だ。
「……マティアス殿」
ユーティア帝国騎士団総長、マティアス・ロードストス。
帝国最強の騎士が戦場に現れたのだった。