帝都の祝祭④
ノーライフキングに向かって疾走する私達だったが、接近に気付いたノーライフキングが腕を上げると、周囲のアンデッドが道を塞ぐ様に立ちはだかった。
「邪魔よ!」
フリューゲルを一振りすればゾンビやスケルトンなどの下級アンデッドは抵抗無く両断されるが、直ぐに別のアンデッドが迫り、その間に斬り倒したアンデッドは再生してしまう。
「退がれ、エリー!」
イーグレットの声を聞き、反射的に背後に跳ぶ。
「【紅焰剣】」
「…………」
イーグレットが手にしていたシャムシールから放たれた炎がグレンのハルバードが作り出した風を飲み込み、津波となってアンデッドを飲み込む。
火属性のスキルか。
確かにアンデッドに有効な属性だ。
燃え尽きて灰となったアンデッドを踏み越えてノーライフキングの首を断つべくフリューゲルを握る腕を引き絞った。
高位アンデッドであるノーライフキングに通常の斬撃は効果が薄く、瞬時に再生されてしまうだろう。
だが、魔力を込めた斬撃ならばそれなりのダメージを与えられる筈だ。
完璧なタイミングでフリューゲルを振り切るが、赤黒い外套が霧の様に変わり、斬撃がすり抜けてしまう。
「霊体化⁉︎」
「エリー!」
血霧が再び形となり、姿を現したノーライフキングはその手に禍々しい剣を振り上げていた。
「くっ!」
腕に魔力を集めて防御を固める私に、ノーライフキングの剣が叩き込まれる直前、私達の間に大量の泥が割り込み、私を掴み上げて後方へと放り投げる。
空中で身体を捻り、何とか着地した私は、泥の巨人がノーライフキングの手にする剣によって腕を斬り落とされるのを目にした。
視線をずらすと、鳶色の髪を一纏めにした若い女が前線に立っている。
昨日の武術大会でも見たAランク冒険者『泥のシスティア』だ。
それだけではなく、大会に参加していた他の人達や帝都に居合わせた高ランク冒険者や傭兵など腕に覚えのある者達が集まって来ていた。
近衛騎士達も体勢を立て直しており、連携してアンデッドが広場から出ない様に立ち回っている。
「エリーさん、大丈夫ですか⁉︎」
「無事か?」
「ユウ、エルザ」
何処かでパレードを観ていたのだろう、ユウとエルザも武器を手に姿を現した。
「アレはノーライフキングか」
「ええ、此処で抑えないと次々と帝都の住民がアンデッドに変えられてしまうわ」
「こんな時にティーダさんが居てくれたら良いんですけどね」
確かにティーダならノーライフキングとの戦闘をこなしながら、浄化の魔法を掛ける事が出来るだろう。
だがティーダは荒野の都市国家群に出向いていて不在。
帝都に居る聖職者では、浄化の魔法を唱えている内に殺されて終わりだ。
「居ない奴の話をしてもしょうがないだろう。幸いかなりの数の実力者が集まっている。ゴリ押しをしてでも倒し切るしかない!」
目の前のスケルトンを大剣で叩き割りながらエルザが言う。
「そうね。イーグレット、グレン、周囲の下級アンデッドを任せても良い?」
「ああ、任せてもらおう」
「…….……」
片手を上げて答えるイーグレットと首肯するグレンに露払いを頼み、私はユウやエルザと共に泥の巨人を倒し『鋼のゴウラン』と数人のAランク冒険者を数で取り囲み攻め立てるノーライフキングへ斬り込んで行った。