旅は道連れ
岩場から少し進み、渓谷の手前で早めの野営をする事にした。
イーグレット達は祝祭に参加する為に帝都を目指していたらしいので、同行する事になった。
彼らの強さは先程の戦闘で目にしていたし、これから向かう渓谷に生息するロックバードはBランクとはいえ、10体から50体程の群れを作り集団で獲物を狙う危険な魔物だ。
強者が増える分には歓迎だ。
「美味いな、荒野を旅していてこんなに美味い食事にありつけるとは思わなかったよ」
イーグレットがキザな笑みを浮かべ私が作ったスープを口へ運びながらそう言う。
ワイバーンの骨で出汁を取り、干しキノコと乾燥野菜を加えたスープだ。
ワイバーンのもも肉も香草で焼いている。
手はかけてないが、豪華な夕食だ。
「大袈裟ね。こんな適当な料理で」
「いやいや、こっちは男所帯だからな。
食事なんて、塩漬け肉を齧りながら堅パンをお湯で流し込む程度さ」
「ボク達、料理出来ませんからね」
「がはっはっは、坊主。これからの時代、男でも料理くらい出来ねぇとダメだぜ」
バアルがオウルの頭をワシワシと乱暴に撫でながら笑う。
ああ見えてバアルはそれなりに料理が出来る。
街中の食堂の様な料理では無いが、野営料理ならお手の物だ。
「それにワイバーンの素材の件も感謝しているよ」
私達が討伐した2体とイーグレット達が討伐した5体のワイバーンは、現在私の【強欲の魔導書】の中に収納されている。
私が素材としてこの場で買い取ったのだ。
「それにしても、本当に彼だけに見張りを任せて良かったのでしょうか?」
ミレイがふと気になった様で、背の高い岩の上で周囲を警戒しているグレンに目を向けた。
ミレイの視線を追ったイーグレットは気にするな、と肩をすくめ。
「ああ、グレンは人前で食事を取らないからね」
鉄仮面で顔の傷を隠しているグレンは、私達が食事をしている間の見張りを買って出てくれた。
彼はこの後、1人で食事を取る事になる。
少し申し訳ないと思うのだけれど、イーグレットが言うには、グレンは普段から誰かと食事をする事は無いそうだ。
その後は話もそこそこに、早めに休む事にした。
明日はロックバードの縄張りを突っ切らなくてはいけないからね。
翌日、明け方に見張りを交代した私とバアルは、皆が起きる前に朝食の用意をしておく。
見張りをバアルに任せた私は、昨夜のスープの残りにパンとチーズを加えてパン粥を作り、紅茶を淹れる。
そうしていると、皆が起き出して来る。
パン粥と紅茶で食事を済ませ、食休みを挟んでから、渓谷へ脚を踏み入れた。
渓谷はそれなりの幅があり、馬車が通る事に苦労する事はなかったけれど、そこら中から視線を感じて居心地が悪かった。
既に私達はロックバードの群れに捕捉されている様で、頭上を巨大な影が何度も通り過ぎて行った。
ロックバードの偵察だろう。
渓谷に入ってから2時間程経つと、頭上をロックバードが引っ切りなしに飛び交う様になった。
「こりゃあそろそろ来るか」
「ええ、段々と道が広くなって来たわ。
この辺りがロックバードの狩場なのでしょうね」
「エリー様、この先に広場の様になっている場所が有ります」
手綱を握るミレイの言葉で、私はミレイの後ろから前方を確認すると、確かに少し先の道が広がっている。
あそこならロックバードが数を生かして襲いかかるのに適した地形だ。
私は馬車の後ろから、すぐ後ろをついて来ているオウルが御するイーグレットの馬車に事前に決めていたハンドサインを送る。
それを見たオウルは頷くと、馬車の中のイーグレットとグレンに声を掛けた。
私も剣を手にロックバードとの戦闘に備えるのだった。