エリーのお友達大作戦:final mission 女子会を開催せよ!
帝都の散策を終えた私達は、ユウのお店に場所を移した。
買って来た食材で作った料理やお菓子、私が用意したチョコレート菓子やエルザが持って来た紅茶やユウが作った薬茶を囲んでいる。
意外な事に、私達の中で1番料理が上手かったのはティーダだった。
「修行時代によく作らされていたんッスよ」とはティーダの談だ。
因みに次点はユウ。
この2人はまさにプロ並みで、私とエルザは人並みだ。
その後も料理をつまみながらひたすら話す。市井の女性はいつまでも話す、と聞いた事が有ったが、なるほど確かにコレは楽しい物だ。
そして今の話はユウの出身地の話だ。
「ユウは確か東の島国の出身だったわね」
「そうですよ。1800年前、魔王を倒した勇者様が、迫害されていた魔族や国を失った人々を集めて作った国、『日ノ本列島王国』です」
「勇者ねぇ、それってアレでしょ?
異界から来たって言うヒロシ・サイトーの事よね」
「そうですよ。
日ノ本列島王国の現国王、斉藤弘信様の御先祖様ですね」
「勇者が作った国か、どんな国なんだ?」
「良い国ですよ。
周囲は海に囲まれて、陸地は山が多ですね。
それと地震が頻繁に起こります」
「…………それは良い国なんッスか?」
「はい」
話だけ聞くと住みにくそうに思えるけれど、ユウは問題無いと頷いた。
「自然災害が多くて厳しい環境では有りますが、そこに勇者様が齎した異界の知識を駆使して、御先祖様達が頑張って国を作ったんです」
「へぇ、異界の知識ッスか。何か凄そうッスね」
「まぁ、そうは言っても生活の知恵みたいな物がほとんどですからね。
食べ物の保存の仕方とか、山の多い土地での農法とかです」
「そうなんッスね。私はてっきり異界の魔法で開拓したりとかだと思ってたッス」
「異界の物って事なら、勇者様の残した三宝が有りますよ」
「三宝?」
「はい。勇者様がこの世界に現れた時、手にしていた異界の品です。今は日ノ本列島王国の国宝として5年に1度、建国祭の日に一般に公開されるのです」
「なんか凄そうだな」
「凄いですよ。1つ目は『すまほの書』です。異界の知識が記された魔導書で、医学、農法、政など、あらゆる叡智が記されているとされています」
「何で曖昧なんッスか?」
「『すまほの書』は誰にも読めませんからね」
「魔導書なんでしょ?王族とかなら読めるんじゃないの?」
「それがですね、『すまほの書』は私達が普段見る様な書物とは全く別の物なんですよ」
「別の物?」
ユウは手で掌より少しだけ大きいくらいのサイズを示す。
「はい、見た目はこれくらいの黒い板なんです。それで、勇者様が触れると光を放ち、求める知識が浮かび上がった、と伝えられています」
「へぇ、所有者を定めるタイプのマジックアイテムか?」
「そうね、多分異界の魔法の産物でしょうね」
「それで他の2つはどんなのなんッスか?」
「2つ目は服です。勇者様が身に着けていた『がくらん』と言う黒い生地に紋章が刻まれた金のボタンが付けられたシンプルな服です。本物は【状態保存】の魔法をかけられて宝物庫に保管されていますが、複製された物は今でも王族の正装として使われて居ます」
「ほぅ、異界の品はやはり我々の常識とは異なる形をしているんだな」
「それで3つ目は?」
「3つ目は『宇宙狩人ギャラクシーもも、ファイナルハンティングVer.』と言うヒラヒラした服を着た女の子の人形です」
「はぁ?」
「人形と言っても、子供が遊ぶ様な感じの物では無く、硬いけど柔らかくも有る不思議な素材で作られた精巧な人形です。
コレについて勇者様はあまり多くの話を残して居ないのですが、時折勇者様は1人でその人形を眺めていたと言う話から、学者の見解では、おそらく勇者様の世界の女神様を象った神像ではないかと言われています」
「異界の女神様ッスか。神像を持ち歩き、別の世界に来ても祈りを捧げるなんて、勇者様は敬虔な信徒だったんッスね」
ティーダは感心とばかりに頷く。
「それと、勇者様が作られた装束が王下二十一家に伝わっています」
「王下二十一家?」
「初代国王である勇者様の21人の側室の子供の家系です。
大陸風に言うと王家の傍流ですね。
下位では有りますが王位継承権も有ります」
「側室が21人か……」
「正室を合わせて22人、随分と剛気な人だったんッスね」
勇者の妻の数にエルザとティーダは少し引いていた。
確かに王族とは言え22人は多い。
だが、それは平時の国の話だ。
「日ノ本列島王国は多種族国家なんでしょ?
なら、その初代が各種族から妻を娶り国としての結束を示すのは政治的には有効な手段だと思うわよ」
「そうですね。確かに政治的な思惑も有ったでしょうけど、勇者様は妻を全員愛していたそうですよ」
「懐の深い人なんッスね」
「それで、その王下二十一家に伝わる装束って言うのは何なんだ?」
「勇者様が22人の妻に贈った物ですよ。
正室……王家に伝わる『せーらー服』、田中家に伝わる『ちゃいなドレス』、神手家に伝わる『みこ服』、水鷲家に伝わる『すくみず』など、それぞれの妻に贈られた装束が伝わっているのです。
因みに、わたしの実家である楠木家は、王下二十一家の分家の1つで、本家である天木家には『なーす服』と言う装束が伝わっています」
「へぇ……ん?じゃあ、ユウさんは傍流王族って事ッスか?」
「まぁ、血筋的にはそう言えなくもないですね。
傍流も傍流なので、王家の家系図にも載りませんし、王位継承権も有りませんけど。
帝国で言うと公爵家の陪臣の一族くらいの地位ですね」
「それでも結構良いところのお嬢様じゃない。なんで帝国に?」
「冒険者に憧れて飛び出して来たんですよ。
実家は兄が継いでいますし、姉も2人いますから、わたしは比較的自由に育ったんです」
ユウの故郷の話はなかなか興味深いわね。
異界から来た勇者が作った国か。
もし機会があれば行ってみるのも面白いかも知れないわ。
その後はエルザやティーダの故郷の話を聞いた。
エルザは帝国の属国の出身、ティーダは西大陸の出身らしい。
私も多少オブラートに包みながら王国の話をする。
ユウは商業ギルド評議員としての情報網があるだろうし、エルザも上級冒険者として、ティーダはイブリス教の枢機卿として、それぞれ情報網を持っているだろう。
私の出自も知っているのかも知れないが、一応誤魔化しておく。
気兼ね無く過ごす友人達とのひと時は、今までに感じた事のない楽しい時間だった。
なるほど、ミレイはコレを伝えたかったのだろう。
これからも偶に彼女らと過ごすのもわるくないと思う。