エリーのお友達大作戦:mission2 ランチトークをせよ!
ユウに案内されたのはごく普通の食堂だった。
昼間は食堂で、夜には酒場になると言うよくある営業形態のお店だ。
「こんにちは」
「いらっしゃい、ユウさん」
「今日は友達を連れて来ましたよ」
私達を迎えてくれたのは恰幅の良い女将さんだ。
厨房の奥にはご主人だろう、禿頭の男性がフライパンを振っている。
日替わりの定食を注文した私達が席に座り雑談に花を咲かせて居ると、女将さんが早々に料理を運んで来てくれた。
「ほぅ、美味そうだな」
「そうね」
日替わり定食はサラダと鳥の魔物の唐揚げ、スープにパンだった。
特に変わったところの無い普通のメニューだけれど、よく見ればサラダは香草や薬草を使った物だった。
唐揚げもハーブをふんだんに使っており、結構クセの強い魔物の肉だけれど、まったく臭みがない。
スープも詳しくは分からないが滋味溢れる味だ。
「随分と変わった料理ッスね」
「初めて食べる料理ね」
「ああ、味は間違いなく美味いんだが、この辺りの料理では無いな」
「ふふふ、実はこの食堂の料理は私がプロデュースしているんです」
「え?」
「それで……やけにハーブや薬草が使われていると思ったわ」
「私の故郷では食事で健康を保つって考え方が強いんですよ。コレは食事に薬草や薬効の有る食材を使う料理なんです。
美容にも良いので女性に人気があるんですよ」
確かに周囲を見回すと、大衆食堂の様な店にしては女性客が多い様に見える。
それからユウに料理の効能を説明して貰いながら舌鼓を打つ。
美味しい料理を食べなから、私達の会話は無軌道に変化する。
「エリーさんは街の食堂とかで食事とかするんッスか?」
「最近はしていないわね。
帝国に来たばかりの頃はミレイと2人で食堂でご飯を食べていたわよ」
「ミレイさんと言えば……」
取り留めのない話は尽きる事なく、食後のハーブティーを飲み終わる事でようやく区切りをつける事が出来た。
「さて、この後はどうするッスか?」
「そうね……」
午後の予定は特に決めていない。
夜にはユウの店に行くつもりだけれど、それまでは自由時間だ。
初め、私はキッチリ予定を立てるつもりだったが、ミレイに相談すると、予定を友達と遊びながら考えるのも楽しい物らしいのでノープランで挑む事にしたのだ。
「あの……」
私達が次の予定を話し合って居ると、不意に声をかけられた。
振り返ると、ブロンドの髪に羽を象った髪飾りを付けたエルフの女性がこちらに近寄って来た。
見た目は15歳前後に見えるが、エルフ族は長命種族なので年齢はよく分からない。
「私、ローザと言います。駆け出しの吟遊詩人です」
駆け出しと言う事はやはり若いのかしら?
でもエルフならそれなりの年でも駆け出しとして吟遊詩人になる事も有るのかも知れないわね。
「何か用ッスか?」
「は、はい!あの……皆さん、冒険者さんですよね?」
「ん?まぁ、そんなところだ」
エルザが答える。
正確に言えば私とティーダは違うのだが、その辺の説明は面倒だと思ったのだろう。
「是非、皆さんの冒険譚を聞かせて貰えないでしょうか?」
私達は顔を見合わせた。
吟遊詩人はこうして各地を旅して、訪れた土地の光景や見聞きした話を元に唄を作ると聞いた事がある。
せっかくなので、私達がダンジョンに潜った話を語り、ローザにも幾つかの唄を歌って貰った。
まだ経験が浅く、緊張している様だったが、ローザの声は美しく、情景が浮かび上がる様な不思議な魅力が有った。
きっと彼女は吟遊詩人として成功を収めるのだろうと、彼女と別れた後、再び帝都の街を歩きながら、私達は話していたのだった。