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帝都への旅立ち

 私が帝国に身を置いてからもうすぐ1年が過ぎようとしていた。


 ガザル商会を吸収したトレートル商会は一気に規模を拡大し、石鹸だけでなく、洗髪剤や整髪剤、化粧水や乳液、口紅などの販売へと手を広げており、さらにはレブリック子爵領を拠点とする化粧品を扱っていた中小商会がトレートル商会の商品の質に押されて経営が傾いた辺りで買収し、次々に傘下に収めていった。


 そんな現在上り調子のトレートル商会の会議室に数人の商会員達が集められていた。


 ガザル商会から雇用した者や他の吸収合併した商会の中から選んだ有能な者達、現在のトレートル商会の幹部達だ。

 その中には数人だが王国の商会で私の部下として働いてくれていた者の顔もある。


 召喚したセイントバードが運んだメッセージを見て、すぐ様駆けつけてくれた者達だ。


 残りのメンバーもこちらに向かう旅の途中の者や、いずれトレートル商会が他国に進出する為の下地を築いてくれている者などそれぞれ動いて貰っている。


「待たせてしまってごめんなさい」


 そんな幹部達を集めた部屋にミレイを伴って足を踏み入れた私に、彼らは立ち上がり頭を下げる。


「みんな、座って頂戴。

 忙しい中集まって貰って悪いわね。

 今日は我がトレートル商会の今後の展望に関して重大な報告があるの」


 僅かに緊張した幹部達の顔を1人ずつ見渡してから、ゆっくりと口を開いた。


「我がトレートル商会は帝都に進出するわ」


 私の言葉を聞いた幹部達は、息を飲む者、鋭い目で頷く者、不敵な笑みを浮かべる者など様々。


「手始めに私が帝都に行きます。その間、この街の商いは貴方達に任せる事になるわ」


 ミレイが入れてくれたお茶を一口。


「グランツ」

「はい」

「私が居ない間、商会長代理を任せます」

「お、俺がですか⁉︎」

「ええ、勿論サポートを付けます。だけど、今後は貴方に私の代理をして貰う事も増えるわ。しっかり頼むわよ」

「は、はい!」


 続いてグランツの隣の席に座る小柄な女性の名前を呼ぶ。


「スティア」

「はい」

「貴女はグランツ付きの秘書として彼の補助をお願い」

「畏まりました」


 スティアは王国の商会で経営メンバーとして働いていた。

 まだ経験が足りないグランツをしっかりと補佐してくれるだろう。


「ではみんな、私が留守の間、頼むわよ」




 その後、いくつかの事案を話し合い、幹部を集めた会議は終わった。


 会長室に戻って来た私とミレイは応接テーブルに向かい合う様に座る。


「帝都に向かうのは私達だけでよろしいでしょうか?」

「そうね……ルノアも連れて行きましょう。

 あの子にもいい経験になるわ」

「畏まりました。

 移動の方は如何致しますか?」

「小さめの馬車で良いわ」

「宣伝用の商材などを持ち込むのでは?」

「ええ、でも荷物の運搬には【強欲の魔導書(グリモア・マモン)】を使うから」

「よろしいのですか?」

「良いのよ、一応まだ隠してはいるけど信用のできる人間になら私の本当の神器の事を話しても構わないわ。

 それくらいしないと王国を潰すなんて出来ないでしょう」


【強欲の魔導書】は所有物を記録する魔導書。

 自身の所有する物を魔導書の中に収納する事が出来る神器だ。

 王国を出る前に資産を収納しておけばルーカス様から金貨を借りる事も無かったのだけれど、当時は本当の神器を隠していた為、収納していたのは非常食や僅かな金銭、医薬品程度。大半の資産は商会の金庫や実家である公爵邸に保管していた。

 流石にそれらを持ち出す余裕は無かったのだ。


 ちなみに現在はかなりの資金や物資を収納している。


「旅は私とミレイ、ルノアの3人で良いわ。

 何人か先行させて帝都に送り出して置いて。

 商館に適した物件や帝都の化粧品の現在の相場を調査させておいて頂戴。

 私達は社交シーズンに合わせて帝都へ向かうわよ」

「畏まりました」


 もうすぐ貴族の社交シーズンが始まる。

 この時期になると貴族達は社交会を開き、親睦を深めたり、牽制しあったり、婚約者を探したりする。

 帝都にいる法衣貴族は勿論、ほとんどの地方の領地貴族や法衣貴族も2、3年に1度は帝都の社交の場に顔を出す。


 レブリック子爵領の領主、ルーカス様も既に帝都入りしている筈だ。


 そして貴族の社交会には少数ではあるが、有力な商人や高位冒険者なども招待される事がある。


 商会の宣伝には持ってこいの場所なのだ。

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(・ω・)ノシ

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― 新着の感想 ―
[一言] 簡潔でシンプルな表現、よく吟味されると思います。 叙景が浮かぶ様で、とても気に入りました。
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