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ミレイの長い1日:朝

 私、ミレイ・カタリアの朝は早い。


 空が白み始めた頃には既に身支度は整え終え、屋敷を任せている使用人頭や侍従頭を集めてミーティングを行う。


 既に使用人では無いので、私の仕事では無いのだが、エリー様の周囲は信頼できる者で固めているので人数が少なく、私が1人で全てを把握する事はできない。

 目に入らない様な雑事を把握する為に必要な事だ。


 ミーティングを終えた後は一旦自室に戻り所用を済ませる。

 が、それは表向きの話だ。

 実際には裏向きの仕事を任せている者達からの報告を聞き、指示を出す時間だ。


 今日の報告は屋敷に侵入しようとした暗殺者数名を捕らえたと言う物だ。

 最近は減って来たが、まだエリー様を狙う者は残っている。

 主に商売敵の大商会や既得権益を脅かされた貴族などが送り込んでくる暗殺者だ。

 屋敷の警備を抜けても、私が配置している暗部の者達に捕らえられて終わるのだけれど、ごく稀にエリー様の近くまで迫る者もいるので油断出来ない。


 それらが終わると朝食だが、今日は少し時間があるので紅茶でも楽しむとしよう。


 自室の一角に設えた食器棚に綺麗に並べられたティーセットから、先日ケレバンで購入した茶器を選び、取り出す。

 帝国や王国のスリムでシンプルな茶器とは違い、砂漠の先の国からの輸入品であるこの茶器には花や小鳥が描かれており、実に華やかだ。


 隣の棚を開くと、そこには多種の紅茶や薬茶、コーヒーなどが収められている。


「…………今日はアールグレイの気分ですね」


 紅茶の中から1つを選び出して丁寧に淹れる。

 香りを楽しみながら朝のひと時を過ごして居ると、先日、バアルから言われた言葉を思い出す。


 バアルは今のエリー様の危うさを告げていた。

 確かにそうだ。私はそれに気付きながら目を逸らしていた。

 王国にいた頃……エリザベート様だった頃がエリー様にとって良かったとは思わない。

 だが、今のエリー様は……。


 先日、バアルからの報告を伝えた時。


『エリー様、ブギー子爵領からバアルが戻りました』

『そう、首尾はどう?』

『全て予定通りです。ブギー子爵はバアルが殺害、家族も全員始末しました。

 ブギー子爵領は治安が極めて悪化、暴行や略奪が蔓延り、困窮した領民は野盗化しております。

 また、非合法な奴隷商人の出入りも確認しています。

 この状況から自力での復興は不可能かと』

『そうね、多分王国は軍を動かして鎮圧に動くでしょうね。

 それと合わせて王国が民を弾圧していると噂を流しておきましょう。

 ついでに治安維持の為に軍備を増強している周囲の属国にも、王国に叛意有りとして懲罰的派兵の用意をしているとプロパガンダを』

『かしこまりました』

『ああ、それとミレイ』


 立ち去ろうとする私をエリー様は呼び止める。


『はい』

『帝国領の一部地域で不作が続いているらしいわね』

『はい、天候不順が原因と思われる不作が確認されております。

 現地の領主が対応しておりますので、餓死者までは出ないと思われますが、困窮はしているものかと』

『大変よね。予備予算からトレートル商会名義と私の個人名義で義援金を送って置いて頂戴』

『…………かしこまりました』




「ふぅ」


 香り高い紅茶の風味を含む息をゆっくりと吐き出す。


 残虐な報復を行いながら、人々の不幸に心を痛めて施しをする。

 その二面性を持つのは問題では無い。

 その二面性を一切自覚していないのが問題なのだ。


 エリー様は自らを裏切った王国の民がどれほど苦しもうと気に止める事はないが、一方で弱い立場の者に、かつてと変わらず慈愛の手を差し伸べる。


 その心のバランスが崩れる時がいつかやって来る筈だ。

 その時、エリー様の精神が耐えられるのか……。


 やはり、バアルの言う通り、なんとかしなければいけないでしょうね。

 エリー様に復讐以外の生きる意味を見つけて頂かなくては。


 空になったカップとティーポットを片付けた私は、朝食後のミーシャへの侍従教育の内容を考えると同時に、エリー様にそれとなく人生の楽しみを見つけて貰う方法を考えるのだった。

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