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アデルの奮闘:排除すべき害悪

 ハルドリア王国の王城、その一角には人払いがされ、最低限の人間だけ働く区画が有った。


 まぁ、ボクが信用出来る人間しか入れない様にしているだけなんだけどね。


 ボクはその区画に設けられた中庭を、マオレンを引き連れて歩いている。

 昼を過ぎ、日が傾き始める辺りの時間、木陰から差し込む光が、水路を流れる水に反射する美しい庭園の中心で足を止めたボクは、深い溜息を吐き、斜め後ろのマオレンに愚痴を吐く様に言った。


「…………また来たのか」

「その様ですね」

「いい加減諦めて貰えないのかな?」

「そうですね。そろそろ無駄だと学習してもよろしいと思うのですが……」

「それが出来ないから、外に出された筈のボクが呼び戻されたんだろうけどね」


 呆れた表情を浮かべながら、ボクの眉間に向かって飛来した矢を掴み取る。

 それと同時に放った無詠唱の【風刃】が、弓を持つ兇手の腕を切り落とした。


 ボクの意識が弓持ちへと向いた瞬間、建物の影や生垣の裏から如何にも暗殺者と言った格好をした者達が迫って来る。


 ボクは袖を翻し、隠していた短剣を手に襲撃者の喉笛を掻き切った。


 ボクが武装しているのを見た暗殺者は標的をマオレンへと移すが、マオレンが投げた長針が脳天を貫き即死する。


 それに怯んだ暗殺者を風で押し潰して拘束、マオレンに、人を呼ばせて牢へと連れて行った。


「これで6回目ですね」

「うん、どうせまた兄上か、兄上の派閥の貴族が雇った殺し屋だろうね」

「良いのですか?この件を突けばフリード様を完全に排除出来ますが?」

「しょうがないよ。王国は未だ混乱の中にあるからね。

 今はまだボクが表に出るのは早い」


 ボクが帰国した事や、王太子の代わりをしている事は、殆どの人間は知らされていない。

 ボクが止めたからだ。


「この混乱を収める為には、それなりに汚い手を使う事もある。

 兄上にはその汚名や恨みと共に退場してもらう予定だから、今は襲撃者は拘束して情報を溜めるくらいしか出来ないんだよ。

 今後の事を考えると、やはりあの件をハッキリさせないと……」

「エリザベート様の事ですね」

「うん。もし、今の王国の混乱がエリザベート姉様の策だとしたら、と思うとね。

 その懸念を晴らすにはエリザベート姉様の居所を見つけなければいけない。

 何処かの国でひっそりと暮らしてるとかなら問題ないんだけど……」


 王国の多くの問題などよりも、ボクはエリザベート姉様を敵に回す可能性がある事の方が問題だと考えているからね。


「やや!アデル!一体どうしたのだ!」


 ボクの足下の拘束された暗殺者達を見て、白々しく声を上げながら近づいてきたのは、ボクの兄上、フリード・ハルドリアだ。


「兄上……この区画は立ち入りを禁じていた筈です」

「堅い事を言う物ではない、アデル。

 私は兄として、貴様が心配だったのだ。

 さぁ、その暗殺者共は私が連行しよう」


 兄上がスッと手を挙げると、待ってましたとばかりに数名の騎士がやって来る。


「いえいえ、兄上のお手を煩わせる程の事ではありませんよ」


 ボクがそう返すのと同時に、ボクが呼んだ者達も到着する。

 彼らは下級貴族や平民の出身だが、ボクに対する忠誠心は高い。

 それを基準に選んだのだから当然だ。


「おいおい、そんな平民の兵士や位の低い騎士では心配だろう?

 安心しなさい。

 私が用意したのは皆、家柄の確かな者達だ」


 家柄しか確かなものが無い奴らの間違いでしょう。


 喉元まででかかった言葉を飲み込み、兄上が連れてきた者達を無視して暗殺者を連行させた。

 あいつらに引き渡したら口封じされるに決まっている。


「さて、兄上、兄上達には、この区画に立ち入る権限は無い。早々に立ち去って貰おう」

「貴様!兄に対して何て口を!!」

「兄上……私は兄上の尻拭いで忙しいのです!兄上は大人しくあの尻軽の胸でも弄っていて下さい」

「なっ⁉︎それはシルビアへの侮辱だぞ!取り消せ!」

「あの尻軽がエリザベート姉様の罪をでっち上げた事は既に調べがついています。

 虚偽の証言をした者達は拘束済みです。

 今は時が悪いので、泳がせていますが、シルビア・ロックイートも当然処断します。

 兄上は余計な事を考えず、大人しくしていて下さい」

「っぐぅ…………」

「衛兵!」

「「はっ!」」


 騒ぎを聞きつけ姿を見せた衛兵を呼びつける。

 本来なら、暗殺者に侵入され、ボクに刃を向けさせた事は、彼ら衛兵の失態だが、この区画はボクが選んだ衛兵以外は配置していない。

 流石に、その人数で完璧に防げとは無謀な話だ。

 その警備の甘さもあり、兄上は何度も暗殺者を送り込んでいるのだろう。


「王太子殿下がお帰りだ。部屋までお送りして差し上げろ」

「「はっ!」」

「ちっ!放せ、無礼者!平民風情が私に触れるな!」


 兄上は衛兵の手を振り払おうとするが、彼らは平民とは言え、ボクが自らスカウトした者達だ。

 その程度で振り払うことなど出来はしない。


「構わん、お連れしろ」

「「はっ!」」


 その後も喚き続ける兄上と取り巻きは、衛兵達に連れて行かれた。


「はぁ、疲れたな。それももう少しの辛抱か」

「はい、あの方は既に王都に到着されております」

「うん、早速面会の申し込みがあったよ。

 正直、彼は使いづらいんだよね」


 有能な事には違いないのだけれど、性格に難がありすぎるのだ。


「仕方ありません。彼しかいないのですよね?」

「そうだね、仕方ないか」


 明日、ボクはある貴族と会う予定だ。


 その貴族との対話次第では、時流が大きく動く事になるだろう。

 良い方向に動けば、兄上を排除し、ボクが、正式に王太子となる。

 悪い方向に動いたならば…………。


「最悪……戦争だよね」

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