躍進の商会
私の目の前には頬を引きつらせたルーカス様が頭痛を堪える様な顔をしている。
「まだ半年と少しくらいしか経っていないはずなのだが……」
私とルーカス様の間にはローテーブル
しかし、現在はそのローテーブルの上には金色に輝く金貨がこぼれ落ちるほど山積みにされていた。
「ええ、ですが既にこうして約束の金貨を用立てる事が出来ましたので」
「何をどうすればたった半年程で金貨100枚をこれだけの大金に変えられるのか……」
「ふふふ、言ったではないですか。
私は貴方様に多大な利益を齎す、と」
ルーカス様は1度溜息を吐き出すと、少し真剣な表情になる。
「エリザベート嬢……いや、今はエリー会長と呼ぶべきだな。
今後は帝都を始め、帝国内なら自由に行動して良い」
コレが素なのだろう。
最近少し砕けてきた言葉でルーカス様は諦めたように言った。
「あら、よろしいのですか?」
「ああ、王国での指名手配の話は聞いている。
今更、君の亡命が王国の策略だとは思わないさ」
「ご理解頂き嬉しく思いますわ」
私は疲れた顔をするルーカス様に優雅に頭を下げるのだった。
ルーカス様の所を辞した後、商会に帰ってきた私は商会長室で幾つかの決算書にサインを書き込んで行く。
「エリー様、お茶が入りました」
「ありがとう、ミレイ」
ティーカップを受け取り、口を付けながらついさっきサインを入れた書類をミレイに手渡した。
「神殿への寄付ですか」
「ええ、これは私やミレイが直接やった方が良いわ」
神殿への寄付も多忙な審問官を引っ張り出す事が目的ではあった事だけど、何かと影響力の強い神殿にはこれからも味方でいて貰う方が都合がいい。
聖職者とて人間、生きる為にはお金が必要だ。子供を育てるなら尚更。
お金で動く訳ではないだろうが、私に非がない限り神殿は私を守ってくれるだろう。
コンコン
「どうぞ」
「失礼します」
ノックの後に入って来たのは10歳程の少女。
「エリー会長、帝都の資料をお持ちしました」
「ご苦労様、ルノア」
彼女はグランツの娘のルノアだ。
目を覚ましたルノアは、私の魔力を浴びた影響か、属性魔法や無属性魔法とは違う『固有魔法』と呼ばれる特殊な魔法を使える様になった。
珍しい事だが、強い魔力や精神的な衝撃により眠っていた素質が目覚めたりする例は確認されている。
ルノアに目覚めた固有魔法は【物品鑑定】。
商人として非常に有用な魔法だ。
そこでルノアをトレートル商会の見習いとして手元に置きつつ、私が直接魔法を教える事にしたのだ。
ルノアから書類を受け取って彼女を送り出す。
「帝都……ですか」
「ええ、せっかくルーカス様から移動の許可を貰ったのだから活用させて貰いましょう」
私は左手に魔力を集める。
「神器【怠惰の魔導書】」
魔力は次第に形を持ち、青い魔導書へと変わる。
【怠惰の魔導書】を捲り、目的のページを開いた私は、銀貨の入ったトレイを手に席を立ち部屋の中央に立ち、ミレイは静かに壁際まで下がった。
「母なる女神に問う 遥かなる蒼穹を駆ける翼とは如何なる者か 風と旅の女神の使徒よ
我、契約に従い銀貨30枚を供物として捧げる
【召喚:セイントバード】」
私の手に持ったトレイから銀貨が光の粉となって溶ける様に虚空に消える。
代わりに光り輝く魔法陣が描かれ、そこから真っ白で尾の長い美しい鳥が15羽現れた。
【怠惰の魔導書】は契約を記録する魔導書。
天界や冥界など、この世界とは違う世界の存在と契約し、対価を支払う事で力を借りる事が出来る魔導書だ。
私は用意していた手紙をセイントバードの脚に括り付ける。
「さぁ、みんな。よろしくね」
セイントバードはミレイが開いた窓から一斉に飛び立って行った。
帝都に進出するなら有能な人材が多く必要だ。
その為に散らばっているかつての商会のメンバーを集めるのだ。
飛び立ったセイントバードが見えなくなった後、私はミレイに顔を向ける。
「準備が整い次第、帝都に乗り込むわ」
◆◇★◇◆
『ああ、魔女様。私の命をお救い下さった恩人にして師よ。
貴女の栄光の旅路にどうか私をお連れ下さい』
『この旅の先に栄光が有るのかは分からない。苦難の先に無為に屍を転がすだけかも知れないわ。
ルノア、それでも貴女は私と共に歩むつもりなの?』
『当然です。
もしも貴女の歩む先に闇が待ち受けるなら、この私が光に変えて見せましょう』
『分かったわ。共に行きましょう。
私達の旅へ。
この国に光を灯す旅へ』
ビルク・シェール作
戯曲『荒野の商人ルノア・カールストン物語』
第一幕『ルノアと黄昏の魔女の出会い』冒頭より
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