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バアルの華麗なる暗闘:扇動の場合

 街の外れにある廃墟の一角で俺は先に潜入していた配下からの報告を受け取っていた。


「ほぅ、随分と敵意が集まっているな」

「はい、我々が流した情報も有りますが、元々この領の領主は重税と賦役で民衆からの支持が離れていました」


 俺が今いるのはハルドリア王国のブギー子爵領の領都だ。


 ブギー子爵領は、偽金貨事件の賠償として、かなりの領土が帝国へ割譲された為、帝国との領土を接する事になった領地である。


 俺がわざわざこんな田舎領地へと足を運んだのは、当然だがお嬢の命令だ。

 領主のブギー子爵は、仕事をお嬢に押し付けるばかりか、身勝手な申請やらチマチマした改竄やらで手間を掛けた挙句、散々世話になっていた癖に、お嬢が国を出ると手のひらを返してあのバカ王子に擦り寄って行ったらしい。

 その結果、お嬢から要らないので処分しておく様に、と俺が派遣されて来た訳だ。

 まぁ、お嬢が自ら手を下す価値も無いと判断した程の小者だ。


「それで、武器の方はどうだ?」

「はい、そちらも順調です。

 流れの商人を装って質の良い物をばら撒き、更に盗賊団に武器を流して討伐、冒険者の戦利品として纏まった数を領内に持ち込んでいます。

 事が始まった後は、ダミー商会の倉庫からも掠奪に偽装して武具を放出する用意が有ります」

「そうか、領主の方の軍備は?」

「大した事は有りませんね。

 元々帝国との国境を接していた領地では有りませんでしたからね。

 領内の治安維持も適当ですし、トレートル商会の護衛の方が装備、練度共に優れています」

「なるほど、今回は早めに帰れそうだな」




 数日後、俺は配下を引き連れてある酒場へとやって来ていた。


 酒場のドアを蹴り破り、中に押し入ると、そこでは男達が卓を囲んで話し合いを行っていた。


 奴らはいわゆるレジスタンスってヤツだ。

 ブギー子爵への反抗を企てている連中の中核である。


「ば、馬鹿な⁉︎何で此処が……ぎゃ!!」

「ひっ!う、うがぁ!!」

「やばい!逃げ……ぐふぅ」


 慌て出す男達を俺達は次々と斬り伏せて行った。


「クソ!領主の野郎!問答無用かよ!」

「ちくしょう!ちくしょう!!」


 現在の俺達の姿はこのブギー子爵領の領軍の革鎧を身に着けている。


 奴らから見れば、反抗を察知した領主が兵を差し向けて鎮圧しようとしている様に見えるだろう。


「皆殺しにしろ!1人も逃すなとブギー子爵様の命令だ!!反逆者共を殺せ!!」


 わざとらしく子爵の名前を出す。

 そして逃すなとは言っているが、半数は逃す予定だ。


 程よく殺して、ほどほどに撤退。


 事前に増税の噂(嘘)や、領主の横領(コレは本当)の情報を流して、国や領主への悪感情を煽っていた領民は、コレをキッカケに大規模な反乱を始める。


 分かっていた事だが、お嬢のプランは怖くなる程すんなりと進んで行く。


 今も街中に潜む俺の視線の先では武器を手にした民衆が10人程駆けて行った。

 もう数時間もすれば、配下達が街のあちこちに火を付けて回る筈だ。


「お嬢もだいぶイカれちまってるな」


 帝国に亡命してからのお嬢は随分と不安定だ。

 もともと、貴族共にこき使われても義務だからと自分を押し殺す様に教育されていた所為で、不安定だった精神が、ブチ切れた事で180度振り切れた。

 身内には慈悲深いが、嫌っている王国貴族には全く容赦しない。

 それも、無関係な民衆を巻き込む事に躊躇も無い。


 あのロベルトのクソガキをハメた時もかなり死んだ。

 今回の反乱でも老若男女問わず多くの領民が死ぬだろう。


 こりゃあ、早いところお嬢の報復を終わらせて、静かな時間を過ごして貰わないと、お嬢の心が保たないかもしれねぇな。


 タバコを咥え、紫煙を吐き出しながら取り留めもなくそんな事を考えていると、配下が音もなく部屋に入ってくる。


「バアルさん、民衆が衛兵詰所を占拠したそうです」

「ああ、これから領主の屋敷か?」

「ええ、既に包囲が始まっています」

「よし、俺達も動くか。

 お嬢に子爵の首を土産にしてやらないとな」


 冗談と共にタバコを放り捨てる。

 部屋の隅に積まれた雑多なガラクタに燃え移り、煙が上がるが、気にしない。


「エリー様は嫌がりますよ、多分」

「なら、代わりに金庫の中身を頂くか。

 それなら喜ぶだろ?どうせ民衆に掠奪されるんだからな」


 俺は漂って来る血の匂いと木霊する誰かの悲鳴に、機は熟したとばかりに歩き始めた。

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