冒険者ルノアの冒険:初めての約束
「パーティに?」
「ああ、ルノアが加わってくれれば百人力だ!」
「心強い」
「うん、どうかな〜?」
パーティか。
でも私は普段は商会の仕事がある。
常に行動を共にする固定のパーティに入るのは難しい。
「ごめん、私は本業で商会の仕事もしてるから、パーティに入るのは無理かな」
「そうなんだ〜、残念」
「無理強いは出来ない」
「だな、残念だが諦めるか。
でも、もし時間が取れたら一緒にクエスト受けようぜ」
「うん、それなら」
その後、私達は冒険者ギルドに併設している酒場へと移動した。
3人が助けて貰ったお礼として、食事を奢ってくれると言うので、有り難く頂く事にした。
皆で日替わり定食(今日はオーク肉の香草焼きとボイル野菜のセットだった)を食べながら、これからの冒険の話に花を咲かせた。
「やっぱ効果の高いポーションは必須だよ〜」
「だが金が無い」
「ゴブリンと遭遇した時に虎の子のポーションを使ってしまったからな。
新しいポーションを買ったら今回の報酬の大部分が飛んじまうぜ」
「ポーションか…………そうだ!私、良いお店知ってるよ」
「なに!本当か?」
私はレウス達を連れてギルドを出ると、大通りから一本裏へと入り、少し歩く。
「この辺りは来た事がないな」
「そうだね〜、マイナーなお店や上級冒険者向けのお高いお店が多いから〜」
「俺達みたいな駆け出しは用がないよな。本当に此処にお得なポーションを売っている店なんて有るのか?」
「ふふ、着いてからのお楽しみだよ」
この情報は先日聞いたばかりの最新の物だ。
まだ殆どの人は知らない筈だ。
そうこうしている内に、私達は一軒のお店の前に到着した。
古い雑貨屋を改装したそのお店は、一見、何処にでも有る薬屋に見える。
2階建てで、一階が店舗、2階は倉庫と店主の自宅となっている小さなお店だ。
「ちょ、此処って……」
「聞いた事あるよ〜」
「知ってる」
3人はお店の看板を見て固まっていた。
ドアに掛けられたOpenの文字が書かれた看板には、止まり木で羽を休める鳥の絵が描かれており、そのすぐ下に《雷鳥の止まり木》と店名が記されていた。
「おい、ルノア!此処ってあの有名な《雷鳥の止まり木》だろ?」
「そうだよ」
「帝国一の薬師のお店だよね〜。
確か、上級冒険者の人が万が一の為に1つだけポーションを用意したりする超高級店だよ〜」
「買えないぞ」
「大丈夫、大丈夫」
私は予想通り、驚く3人の顔を見て、満足気に笑い、二の足を踏む レウス達の背を押してお店のドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは」
お店の中は濃い薬草の匂いが漂っていて、正面にカウンター、左の壁一面に薬や薬草などが所狭しと並べられていた。
右側には応接テーブルと何に使うのか分からない道具が丁寧に納められた棚が有った。
「あ、ルノア。いらっしゃい」
「ごめんね、リリ。忙しかった?」
カウンターに居たのは私と同じ歳の人族の少女だ。
彼女はこのお店の店主である帝国一の薬師、
《漆黒》ユウカ・クスノキの弟子、リリだ。
何度かエリー会長のお使いで、このお店を訪れた私は、彼女とも仲良くなっていたのである。
そんなリリはカウンターで店番をしながら、乾燥した木の実の殻を剥いていたのだが、リリは直ぐにそれを片付けてしまった。
「別に忙しくないよ。時間があったからトナの実の下処理をしていただけだから。
それで、そっちの3人は友達?」
「うん、前に私、冒険者になるって言ったでしょう?外の森で出会って共闘したんだ」
「へぇ、怪我は無かった?」
「大丈夫。それで彼らは手持ちのポーションを使い切ったみたいなの。
そこで、リリが言っていた件を思い出してね」
「ああ、アレね。ちょっと待ってて」
そう言い残し、リリはカウンターの奥の扉へと姿を消してしまった。
「お、おい、ルノア。いくら何でもこんな超高級店じゃ買えないぞ?」
レウスが心配そうに尋ねる。
レイアとリオは棚に並べられたポーションの値段を見て呆然としていた。
そこに陳列されているポーションは1番安い物でも、Fランクの冒険者が1ヶ月、懸命に働いても手が出せない様な高級品だ。
「お待たせ」
そこにリリが木箱を抱えて戻って来た。
その木箱をカウンターに置くと蓋を開けて見せる。
中には低級ポーションや低級解毒ポーション、低級魔力ポーションなど、基本的なポーションや、火傷薬、解熱薬、痛み止めなどの基本的な薬が保管されていた。
「この木箱のヤツは1つ銀貨1枚で良いよ」
「え!本当か⁉︎」
低級ポーションで銀貨1枚は少し高い。
でも店主のユウさんが作った低級ポーションなら軽く銀貨6枚はする。
何故ならそこいらの中級ポーションなどよりも余程効果が高いからだ。
まぁ、それをすると市場が乱れるから、ユウさんはあまり安い薬(銀貨6枚は安くないと思うけど……)は作らないそうだ。
「コレは私が作った薬だからね。
最近、師匠が許可してくれた物ならお店で売って良いって言って貰ったの」
「ユウさん程では無いけど、リリの作ったポーションでも他のお店の低級ポーションより上質だよ」
リリのポーションはユウさん程、常識を逸脱した物では無いけど、それでも十分高品質の出来だ。
そう説明すると、3人は一本ずつ低級ポーションを購入する事に決めた。
駆け出しの冒険者にとって銀貨1枚はなかなかの出費だが、いざと言うときにポーションが有るのと無いのでは大違いだ。
それに初級冒険者なら、魔法薬は低級ポーションが有れば十分だ。
私は鑑定魔法を使って、特に出来の良い3本の低級ポーションを取り出した。
「相変わらず、便利だね【物品鑑定】の魔法は」
リリは苦笑しながら木箱の中から魔法薬では無い傷薬を3つ取り出す。
「コレはオマケね。3人は私の初めてのお客さんだから」
「ありがと〜」
「恩に着る」
「もっと稼いでまた買いに来るぜ」
こうしてリリが調薬したポーションを購入してお店を後にした。
「じゃあな、ルノア。今回は助かったぜ」
「いい店も教えて貰った」
「また、一緒に冒険しようね〜。約束だよ〜」
「うん、約束するよ」
こうして私に初めての冒険者の友人が出来た。
後に私は、商会での仕事の傍ら、約束通り彼らと数々の冒険を経験するのだが、それはまだ先の話である。
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(・ω・)ノシ