冒険者ルノアの冒険:初めての冒険
「冒険者になりたい?」
私の話を聞いたエリー会長は珍しく目を丸くしてキョトンとした顔でそう返しました。
「商人になるのを辞めるの?」
「いえ、私は経験を積みたいのです」
あの誘拐事件があってから、私は考えていました。
ミーシャは私達が拐われた事をずっと気に病んでいる様で、元気が無い。
だけれど、それはミーシャだけの責任では無い。
あの時、私がもっと冷静に対処出来ていれば、ミーシャと協力して戦えていれば結果は違った筈だ。
でも私は動揺してまともに戦え無かった。
私に足りなかった物、それは経験だと思う。
エリー会長達の指導で魔物や野盗と戦った事はある。
でもそれは与えられた戦いを、教えられた通りに戦っただけで、自分で考えて行動した訳ではなかった。
だから私は経験を積むために冒険者になろうと思ったのだ。
そう説明すると、エリー会長は納得した様に頷いた。
「ルノアの考えは分かったわ。
確かにその経験はあなたの糧になると思う。
でも……そうね……」
エリー会長は顎に手を遣り考え込む。
「うん、分かったわ。許可しましょう。
ただし、依頼の状況は細かく報告する事。
約束よ」
「はい!」
エリー会長から許可を貰った私は、次の休みに帝都の冒険者ギルドへとやって来た。
商会の仕事で何度か来た事はあるが、今回は冒険者としての登録なので、キチンと武装している。
エリー会長から貰ったトレントと風の魔石の魔杖と、昨日ミレイさんから手渡された魔力の回復を僅かに早める魔女の帽子、たまたま外で会った《鋭き切先》の治癒魔導士、リサさんに街の防具屋で見立てて貰った、丈夫な布を魔物の革で補強したローブだ。
少しドキドキしながらギルドの受付に進むと、狐人族のサラサさんが対応してくれた。
「あら、ルノアちゃん。会長さんのお使いかしら?」
「いえ、今日は冒険者として登録をしに来ました」
「ええ⁉︎」
私は簡単に説明した。
「なるほど、商会長さんも許可しているなら私が止める事は出来ないわね。
でもくれぐれも気を付けるのよ」
必要事項を記入した書類を渡し、ギルドカードを受け取る。
これで私もFランク冒険者だ。
取り敢えず今日は、日帰り出来る近場の薬草採取の依頼を受けてみる事にした。
帝都から近い森の浅い場所で指定された薬草を集める。
この薬草も、【物品鑑定】の為に勉強した知識の中に有り、上手く群生地を見つける事が出来た。
更に珍しいキノコや効果の高い薬草もついでに採取する。
依頼以外の品もギルドで買い取ってくれる筈だ。
「こんな物かな」
なるべく質の良い薬草を依頼の量より少し多めに集めた私は、日が暮れる前に帝都に戻る為、そろそろ帰路に就こうと立ち上がった。
すると、私の居る場所から少し先、森の中から複数の足音と悲鳴の様な声が聞こえて来た。
「なに?」
私が傍の魔杖に手を遣り、荷物を纏めて警戒していると、少し先の森の中から私と同年代くらいの冒険者達が飛び出して来たのだ。
片手剣と盾を持った男の子と槍を持った男の子、弓を手にした女の子の3人だ。
見ればゴブリンの群れに追われている。
私は僅かな逡巡の後、魔法を詠唱しながら走り出した。
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