ミーシャの迷走:手にした光を確かめるが如く
ミレイ様やエルザ様にアドバイスを受けて数日、どうしたら良いのか分からない日々が続いていた。
今日はお休みを頂いていた私は、帝都の通りを1人、歩いていた。
誘拐事件も有ったので、あまり遠くに行く事は禁じられていますが、この辺りなら衛兵の巡回も多いので問題ありません。
本当なら今日の休みは鍛錬に充てるつもりだったのだけれど、それはエリー様に禁じられてしまった。
昼を屋台で簡単に済ませた後は、特に目的も無く街をブラブラと歩いていました。
「がっはっはっは!!マジかよ!」
「ふはっはっは!そうなんッスよ〜」
なんだか聞き覚えの有る笑い声に私の耳がピクピクと反応する。
声の方に顔を向けると、酒場も兼ねる食事処の大きく開かれた扉から、昼間から大量の酒瓶を机の上に並べた大男とシスターの姿が見えた。
「お!ミーシャちゃんじゃないッスか〜」
「ん?おお、猫の嬢ちゃんか」
「こんにちは、バアル様、ティーダ様」
まだ日も高い内に顔を赤らめる2人は、両人とも私の知人だった。
イブリス教の聖職者のティーダ様と、エリー様直属の部下であるバアル様だ。
このお二人は知り合いだったのだろうか?
2人に誘われて席に着いた私は果実水を貰う。
「ティーダ様はいつの間に帝都に戻られたのですか?」
「今日ッスよ。エリーさんへの挨拶は明日にして、今日は休もうと宿に入ったらバアルさんと知り合いまして、話したらエリーさんの舎弟だって言うじゃないッスか」
「んでせっかくだから2人で呑んでたんだ。
で、猫の嬢ちゃんは何で1人でこんな所に居たんだ?」
「私は……特に何も……」
「ん、悩み事ッスか?
なら私が相談に乗るッスよ。なんだって私はシスターさん、悩める子羊を導くのがお仕事ッス」
ティーダ様はそう言って胸をドンと叩いた。
詳しくは知らないけれど、エリー様の話では、ティーダ様はイブリス教の中でもとても偉い人らしい。
こんな所でお酒を飲んでいて良いのだろうか?
「えっと……それが……」
私はだんだんと相談し慣れて来た話をする。
ミレイ様とエルザ様に言われた事も付け足して話したらバアル様がその大きな手で私の頭をポンポンと叩いた。少し痛い。
「若けぇ悩みだな」
「そうッスね、しかし、エルザさんの言う通り、その答えは自分で見つける物ッスね」
「ではもし、ティーダ様やバアル様が私と同じ状況に陥ったらどうなさいますか?」
「ん?友達が誘拐されそうになった場面の事ッスよね?
そうッスね……私なら人質が多少怪我してでも犯人を仕留めるッスね」
「ええ⁉︎」
「即死さえしていなければ魔法で治療出来るッスからね。
大きな街ならそれなりの治癒魔導士も居る筈ッスから」
「…………バアル様は?」
「そうだな………………俺は逃げるな」
「え⁉︎」
「相手は誘拐犯だからな。囚われても直ぐに殺される可能性は低い。
なら逃げて仲間を呼ぶ方が良いだろ?
1人で勝てないなら、勝てる面子を揃えるのが手っ取り早い」
2人の話は確かに理解出来る回答でした。
ティーダ様は理知的に状況を判断し、バアル様は最善手を瞬時に導き出した。
「…………私は間違って居たのでしょうか?」
「ミーシャちゃんの行動も不正解ではないッスよ。でも、それを実行する力が足りなかったんッスね」
「ではやはりもっと強くなるしか……」
「確かに強くなるのはいい事だぜ。
だがな、相手がそれを待ってくれる事はない。
今の自分に出来る最善を尽くすしか無いんだぜ」
「自分の最善……」
私の最善……あの場での最善は何だったのか。
ルノア様とアリス様が人質にされた瞬間、逃走してエリー様を呼ぶべきだった。
万全の状態の私なら、もっと早くエリー様達を呼ぶ事ができた筈だ。でも……。
「私は……私は強くなりたいです。
でも、私には出来ない事が沢山有ります」
「なら出来る仲間に任せれば良いッス」
「それは良いのでしょうか?」
「良いに決まってるだろ。
何でも出来る奴なんて居ねぇんだからよ」
「ミーシャちゃんは責任感が強いみたいッスけど、もっと人を頼るべきッスよ」
人に頼る。
それは甘えでは無いのだろうか。
だけど、確かにそれは有効な手段だと思う。
誰かに頼り、誰かに頼られる存在。
私の良い所を伸ばし、苦手な所を誰かに頼る。
全く分からなかった答えが僅かに光を放った様に感じた。
少しだけ、ミレイ様やエルザ様の言っていた事がわかったかも知れない。
私は少しだけ心が軽くなった気がした。
私の感謝の視線に気付かぬまま、2人の酔っ払いはお酒を飲み続けるのでした。
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