召喚の日
「話なんて聞く気は無いッス。
お前は拐ってきた子供の魔力を限界まで抜き取って殺し、その魔力を使って古代の禁術で富裕層を治療、多額の報酬を受け取っていたそうッスね。
既に近くに居た第4聖騎士団の分隊にも此方に急行する様に使いを出してるッス。
このまま、大人しく聖騎士団の拷も……じゃなかった、審問を受け全てを話すなら痛い目を見ずに済むッスよ……今は」
ドンドルはヒルデに斬り飛ばされた親指を押さえながら青い顔で後退りするが、壁際にまで追い詰められて逃げ場を失ってしまった。
「わ、私は……私は……私はこんな所でぇ!!!」
ドンドルは懐から取り出した短剣を振り上げた。
その短剣は武器として作られた物には見えない。
無駄な装飾や不必要な刃の湾曲など、実戦用の武器としては意味の無い要素が多過ぎるからだ。
インテリアか……もしくは何かの儀式用の物か。
ドンドルはその短剣を側に有った聖職者の死体へと突き立てた。
「ん?何をしてるんッスか?」
私は突然の魔力の膨らみを感じた。
「ティーダ、退がって!」
「っ⁉︎」
「な、何?」
ティーダが私やヒルデの側まで跳び退がると、短剣が突き刺さった死体を中心に魔法陣が広がった。
「な、何ッスか、コレは⁉︎」
「魔法陣……それも召喚系!」
ヒルデが魔法陣を読み取る。
「あの短剣、何かを召喚するマジックアイテムッスか?」
「これは……」
私はその魔法陣に見覚えがあった。
ヒルデが言う通り、これは召喚の魔法陣だ。
それも、冥界からの。
「……悪魔召喚」
あの短剣を突き刺した死体を贄に冥界から悪魔を呼び出すつもりか。
だが、死体一つの贄で呼び出せる悪魔なら私1人でも対処出来る。
ドンドルは光を放つ魔法陣を見てニヤリと口角を上げた。
「ふひ……ふひひひひぃ!!
小娘共がぁああ!!この【招来の短剣】の力でぇえ!!」
その時、私はドンドルの足下の魔法陣が不自然な動きをしたのに気が付いた。
一度描かれた魔法陣が描き変わったのだ。
「っ⁉︎」
「ん?」
ヒルデとティーダも違和感を感じたらしい。
「今のは一体……」
ドンドルはそれに気付かずに両手を上げて高笑いを続ける
「ひぁはっはっはぁ!!これで終わりだぁ!!小娘共ぉぉお!!【召喚】」
ドンドルが叫ぶと魔法陣の光が黒く染まり、黒い棘が突き出る。
その棘は周囲の聖職者の死体やドンドルを貫いた。
「ごふっ⁉︎な、な……ぜ……」
短剣を突き刺された死体と、黒い棘が刺さったドンドルや聖職者の死体が塵となって崩れて行く。
「な、何だ⁉︎か、身体が……い、痛い……怖い……何だコレはぁぁあ!!!」
「干渉されてる⁉︎」
「割り込まれた!本来の召喚とは別の物が来るわ!」
部屋中に転がる幾つもの死体と、ドンドルの命を贄に魔法陣から悪魔が現れる。
青白い肌に魔族よりも太い角、そして黒い眼球に白い瞳、典型的な悪魔の特徴を持つ男は、貴族の様な上等な服を着こなしており、黒地に紋章が刺繍されたマントを靡かせている。
その佇まいには一定以上の実力者が持つ凄みの様な物が滲み出ていた。
「明らかに初めの召喚で呼ばれていた悪魔より高位の悪魔ね」
召喚に割り込んで無理やり贄を増やして自ら召喚されたわけね。
悪魔はゆっくりと周囲を見回した後、私達の方に顔を向けた。
「初に相見える、人間よ。
私は伯爵二位、アルトロス・イザ……」
悪魔は名乗りを中断し剣を抜くと、死角から振り下ろされた真っ白な大鎌を受け止めた。
「神器【神の恵みを刈り取る刃】」
「ふむ、名乗りを遮り攻撃とは……品性に欠けるぞ、お嬢さん」
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(・ω・)ノシ