制裁の商会
私達が部屋に入るとガザルは此方を睨みつけて来た。
「貴方が私共の商会の名を傷付けた事に対して慰謝料を請求致しますわ」
私が告げるとガザルは小馬鹿にした様に鼻で笑う。
「確かにワシの罪は認めよう。
だが、貴様の様な小娘に金を払うつもりは無い。小娘は知らないかも知れないから教えてやるが、商業ギルドは商会の犯罪に対して強制力を持つが民事的な権限は持っていない。
それらは法と正義を司るイブリス教の領分だ。
ワシに金を払わせたかったらイブリス教の審問官でも連れてくるんだな」
ガッハッハ、と笑うガザルを無視して椅子に腰掛けた私とミレイは溜息を吐き出した。
「では、そうさせて頂きます。
どうぞ。お入り下さい」
私が声を掛けると正装した司教様が部屋に入って来た。
「な、ル、ルイス司教……様……ば、馬鹿な、なんでこんな小娘に……」
「口を慎みなさい、罪人よ。
エリー殿は真に敬虔な女神の僕、その名誉を不当に傷付けるなど、この様な不誠を女神様がお許しになる事は有りません」
◆◇★◇◆
何なのだ!この小娘は!
司教だぞ!
この街で唯一審問官の資格を持つルイス司教は非常に多忙な人間だ。
こんな些細な事件にわざわざ足を運ぶなんてあり得ない!
トレートル商会に関わってからあり得ない事ばかりだ。
商業ギルドに連行されてから強制捜査されたワシの商会からは処分したはずのトレートル商会への盗みの指示の証拠や隠していた筈の脱税の証拠などが次々に見つかった。
少しでも意趣返しをと思い賠償の支払いをごねようとしたら多忙の筈の審問官が現れる。
審問官に女神の名によって命じられれば資産の強制接収も可能になる。
クソッ!クソッ!
トレートル商会などに関わったばかりに……。
ワシは己の命運が尽きたのを感じ項垂れるのだった。
◇◆☆◆◇
ルイス司教の命令により、今回の被害に対する賠償として、ガザルの資産であるガザル商会の経営権やガザルの個人資産、犯罪奴隷としての売却金の一部などが私の物となった。
ガザル商会は今回の不祥事により、倒産。
商会員や施設、資材など、丸ごと私のトレートル商会に吸収される事になった。
偽石鹸の被害者も治癒魔法による治療で回復し、私もお見舞いとして本物のトレートル商会の石鹸を送り、今後の取引を約束して矛を納めて貰った。
数日後、それらの手続きを終え、商業ギルドを出ようとする私達をアルテが呼び止めた。
「この度はご迷惑をお掛けしました。
改めてお詫び申し上げます」
「いえ、商業ギルドのせいでは有りませんから。それにアルテさん達のお陰で迅速に解決して被害も最小限に留まったのですから、こちらこそ感謝いたしますわ」
アルテは僅かに微笑むと手を差し出した来た。
「ありがとうございます。エリー会長」
「こちらこそ、アルテさん」
私はアルテと握手を交わす。
すると、アルテは少し声を潜めて言う。
「実はガザルを尋問している時に判明したのですが、ガザルにトレートル商会の石鹸の製法を盗む様に唆した男が居るそうです。
グランツ・カールストンと言う男なのですが、商業ギルドとしては商会長であるガザルの責任が大きい上、グランツが明確に盗みを唆した証拠が有りませんので処分する事は出来ませんでした」
「そうですか。
教えていただき有り難うございます。
そのグランツと言う男もトレートル商会がガザル商会を吸収した現在は、私の商会の商会員。
混乱が大きい今、大々的に処分するのは私の商会にも負担が大きいですし、そのグランツと言う男の処遇は私に一任して頂きたいですわ」
アルテは頷きを返した。
「分かりました。それではお気を付けて」
アルテと別れた私とミレイは元ガザル商会の商館へと向かった。
既にガザル商会の看板は撤去され、現在はトレートル商会と書かれた真新しい看板が掲げられてらいる。
「戻りましたわ」
「お帰りなさいませ、エリー会長。ミレイさん」
私達が商会に入ると忙しなく働いていた商会員達が一斉に頭を下げる。
彼らは商業ギルドの調査により犯罪への関与は無いとしてそのままトレートル商会に雇用された者達だ。
彼らに軽く手を上げて答えた私は商会長室に入り上等な椅子に腰を下ろす。
この部屋にあった下品な調度品なども既に処分され、ミレイによって品良く整えられている。
「ミレイ」
「はい、既にグランツは此処に呼び出しております」
私の意図を読んだミレイは戻って早々、グランツを呼び出していた様だ。
流石、長い付き合いなだけはある。
数分後、会長室に控えめなノックが響く。
「し、失礼します」
そして、何処か落ち着かない様子の男が私達の前に姿を現した。
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(・ω・)ノシ