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拘束の日

 地下通路は狭く、私やヒルデは兎も角ヘル・ハウンドは流石に通り抜ける事が出来なかったので冥界へ送還し、薄暗い通路を2人で慎重に進んだ。


「あの男、代官と繋がりが有ると言っていたわね」

「ええ、何か知っているの?」

「代官のブルタスは最近妙に金回りが良いのよ。私の経営する娼館の1つに、毎日の様にやって来て人気の娼婦を買って行く。

 貴族がたまの贅沢、平民が一生に一度の思い出に訪れる様な高級娼館よ。

 とても代官程度の給金で豪遊出来る物では無いわ。

 何かしら表に出せない金を得ていると思って調べを進めていたのだけれど、もしかしてこの誘拐事件に何か関係が有るのかも知れないわ」

「誘拐……確かケレバンの街に来る前に、街道で誘拐事件について調べている聖騎士に会ったわね」

「ええ、このケレバンの周囲の街でも多くの行方不明者が出ていると聞いているわ。

 ケレバンの街ではあまり報告に上がらないけど、孤児や旅人を狙っていて、もし被害が出ていても代官が握り潰していたのかもしれないわ」


 小声で話す私達の声が薄暗い通路に反響する。

 光源の無い通路だが、ヒルデが手の平に生み出した炎の明かりを頼りにするしか無く、罠や隠し通路などを警戒しながらなので歩みは速くは無い。


「もうかなり歩いたわよね?」

「ええ、体感だけど既にケレバンの街を出ていると思うわ」

「街の外に拠点が?」

「ケレバンの街の外の岩石地帯には古王国時代の遺跡が有るのよ」

「まさか……ダンジョン?」

「いいえ、ただの古びた遺跡よ。

 ただその内のいくつかはイブリス教の聖地に指定されているから人の出入りがあっても不審には思われないわ」


 そう言っている内に地上へ上がる階段を発見した。


 罠や警報の類いが無い事を慎重に調べてから登ると、鉄製の扉で塞がれた出口を発見した。


 そっと窺うと外に2人の気配を感じた。

 ヒルデに視線を向けると、彼女は一つ頷き鉄扉に忍び寄り、軽く指を振る。

 すると、扉の外から何かが倒れる音が2度響いた。


「大丈夫よ」


 ヒルデの言葉に頷きで返すと、私は鉄扉の取っ手に手を掛け押し開いた。


 外は既に陽が落ちている時間だが、その場には燭台に火が灯されており、視界を確保するには十分だった。


 石造りの通路は、いつかのダンジョンの中を思わせる雰囲気だ。


 私達が出て来た扉の左右に通路が有り、右は少し進んで行き止まりとなっていて、左は別の通路と合流していた。


 側には2人の男達が倒れて居る。

 ヒルデの魔法で意識を奪われた見張りだろう。


「え?コイツら……」


 私はその男達の格好に僅かに驚きを表した。


 男達が身に着けていたのは法衣であり、首から下げているのはイブリス教の聖職者の証である聖印だ。


「聖職者?」

「此処は……まさか⁉︎」


 ヒルデもその男達の姿と、周囲の光景を見回して目を見開く。


「此処は……旧ケレリア神殿跡……ケレバンの街の外に有るイブリス教の聖地の1つよ!」



 ◇◆☆◆◇



 ルノアが目を覚ますと、口を塞がれ、両手両足は縄で縛られており、身動きの出来ない状態で男に荷物の様に担がれている所だった。


「んぐっ⁉︎」

「ん?ちっ!起きたか。薬の効きが悪いな。

 おい、クソガキ。大人しくしていろ。

 妙な真似をすれば金髪のガキを殺す」

「ん⁉︎」


 何とか視線を動かせばもう1人の男に担がれた意識の無いアリスの姿が見えた。


 今は抵抗しない方がいいと思ったルノアは、取り敢えず周囲を観察する。

 どうやら石造りの遺跡か何かの様だった。


「おらっ!此処で大人しくしていろ」

「ぐっ!」


 牢となっている場所で、鉄格子を開いた男達は、中にルノアとアリスを放り込み、壁に取り付けられた長い鎖を手繰り寄せてルノアとアリスの足に取り付けた。


 鎖の長さは牢の中なら動けるが、外にまでは出られない長さだ。


「おっと、お前にはコレを付けとかないとな」


 そのまま鉄格子を閉めようとした男が、何かを思い出した様に牢の壁際の机から首輪を持ってきてルノアの首に取り付けた。


「コイツはハルドリア王国で作られた魔導士用の枷だ。コレを付けていれば魔法は使えない。無駄な抵抗はせずに大人しくしていろ」


 そう言い残して男達は鍵を閉めて出て行った。


「ん!んぐぅ⁉︎」


 何とかアリスの様子を見ようと地面を這うルノアだったが、不意に背後に気配を感じた。


「ん⁉︎」

「騒ぐな。今縄を解いてやる」


 声の方に振り向くと、ルノアと同じように鎖に繋がれた少年が縄を解こうと手を伸ばしていた。


 歳はルノアより少し上か。

 薄汚れた服を着て、肌が日に焼けた少年だった。


 落ち着いて見れば、少年の背後にも同じ様に鎖に繋がれた数人の人影が見えた。


「よし、解けたぞ」

「あ、ありがとうございます」


 ルノアはお礼の言葉もそこそこに、アリスに駆け寄り様子を見る。

 見たところ外傷は無い。眠っているだけの様だ。


「大丈夫か?」

「…………分かりません」

「多分、薬で眠らされているだけだ。

 同じ様に眠らされていた奴も居たが直ぐに目を覚ましたからな」

「そう……ですか」


 ルノアはアリスを抱き寄せる。


「俺はナナキだ。君は?」

「ルノア……です」

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(・ω・)ノシ

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