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追跡の日

 ケレバンの街の中央を横断する様に正門前広場に到着した私とヒルデは、そこから隣の区画にある自由市へ向かう。


 アリス達が拐われたのは自由市の端の辺りらしい。


 その辺りでは商品を広げていた商人達が衛兵隊に誘導され、チェックを受けた者から別の場所に誘導されていた。


 非常に手際が良い。


「エリーさん、コレを」


 ヒルデがしゃがみこんで地面に落ちていた何かを拾い上げた。


「コレは……魔法球?」

「ええ、残っている魔力から考えて、おそらく闇属性の魔法が込められていたようね」

「多分、【人払い(アンマァンドゥ)】ね。

 ミーシャが突然周囲から人の気配が消えたと言っていたから」


 私は左手に魔力を集める。


「【怠惰の(グリモア・)魔導書(ベルフェゴール)】」

「エリーさん⁉︎」


 神器を作り出すと同時に、懐から取り出したナイフで自分の左の手首を切る。


 勢いよく吹き出す血飛沫にヒルデが目を剥き驚きの声を上げた。


「大丈夫よ」


 私の血が石畳に血溜まりを作り出した所で、水属性の治癒魔法で傷を塞ぎ、詠唱を始める。


「冥府を駆ける四足の眷属よ 焼け焦げた荒野の支配者 群れなす悪夢の一翼よ

 我、契約に従い我が血潮を贄として捧げる

【召喚:ヘル・ハウンド】」


 私の血が蠢き石畳に魔法陣を描き出す。

 その魔法陣から這い出て来たのは一体の獣。

 黒い体毛に、背中から尾まで走る赤い毛皮を持つ体長約2メートルの四足獣型のヘル・ハウンドだ。


「まさか……冥界の魔物?」

「ええ、私の神器の能力で契約しているヘル・ハウンドよ」


 冥界とは私達の世界と重なり合うもう一つの世界だ。

 この世界は私達が住む人界、女神様や天使様、聖獣が守護する天界、悪魔が支配する冥界の3つの世界が重なり合って存在している。

 各世界への干渉は僅かだが存在しており、女神様や天使様からの神託や天界や冥界に繋がる高難度ダンジョン、私の様な契約魔法や召喚魔法での繋がり、古代文明のマジックアイテムなどで関わる事が出来る。

 また、冥界の悪魔の一部などは、人界や天界への侵略を虎視眈々と狙っているらしい。


 私も【怠惰の魔導書】によって冥界の悪魔の1人と契約しており、この話もその悪魔から聞いた物で、人界では権力者などの一部の者しか異界の存在を確信していない。


 冥界の魔物と言う言葉から、ヒルデはその存在を確信しないまでも、知っては居たことが窺える。


 私はアリスのリボンを取り出すと、ヘル・ハウンドの鼻先へと近づける。


「この匂いを追うのよ」

「グルゥ」


 ヘル・ハウンドは数度リボンの近くで鼻をヒクヒクさせると、クルリと踵を返し、地面の匂いを嗅ぎながら歩き始めた。


 狩猟犬にしては大仰な魔物だが、アリス達の後を追えるなら問題は無いわ。


 私とヒルデがヘル・ハウンドの先導で進むと、水で雑に流されているが明らかに血の跡が広がる戦闘痕を見つけた。


「此処があの猫人族の娘が襲われた場所で間違いないみたいね」

「ええ、ミーシャが落ちた川が多分あそこでしょう。匂いの強い方を追って」

「バゥ」


 ヘル・ハウンドが短く鳴いて歩き始め、私達もそれに続く。


 そうして、一件の民家へと到着した。


「此処なの?」

「グルゥ」


 見た目には何の変哲もない民家にしか見えない。

 中の気配を探って見るが、1人分の気配しか感じなかった。


「私が行くわ」


 ヒルデがノッカーをコツコツと叩く。


「はい?」


 出て来たのは、コレまた何処にでも居そうな普通の男だった。


「邪魔するわ」

「え?え?ヒルデ様?」


 ヒルデは男が開けたドアを閉じられない様に押さえて強引に開く。


「ちょ、こ、困ります!ヒルデ様、一体何が?」

「貴方には誘拐事件への関与が疑われているわ。大人しく捜査に協力しなさい」

「ちょ、ちょっとお待ち下さい!誘拐?私が?私は代官様の意を受けているのですよ!いくらヒルデ様でもそんな横暴は……」


 男は何かを言い切る前にその場に崩れ落ちた。


 僅かに魔力が動いたのを感じたので、多分ヒルデが魔法で何かをしたのだろう。

 先程の身体強化もそうだったが、彼女の魔法はほとんどロスが出ていない。


 通常、魔力を魔法として変換する際にロスが発生する物だ。

 このロスは魔力の操作が熟達する程少なくなり、比例して魔力の消費が抑えられ、また魔法の気配を気取られ難くなる。


 察するに魔法の腕に関しては、私よりもヒルデの方が上のようだ。


 意識を失った家主の男を適当に端に追いやり、家に上がり込む。


「良かったの、ヒルデさん。あの男、代官と何か関係が有ったみたいだけど」

「仕方ないわ。

 私がやらないとエリーさん、殺すつもりだったでしょ?」

「…………」


 元娼婦から商才で今の地位にまで登り詰めた女傑と言う話だったけど、戦闘面に関しても予想以上の手練れみたいね。


 大きな身体で窮屈そうなヘル・ハウンドに匂いを辿らせると、居間の中央の床をガリガリと引っ掻き始めた。


「この下に空洞が有るわね」

「ヒルデさん、少し退がってもらえる?」


 何処かに何かの仕掛けが有るのだろうが、私はそれを探す時間を惜しんだ。


 ヒルデが部屋の隅に移動するのを確認して

強欲の魔導書(グリモア・マモン)】から取り出しておいた剣を抜く。

 フリューゲルはまだ修復中なので、帝都で購入した《最高級(ハイエンド)》の剣だ。


 魔力を纏わせ床を斬る。

 すると、床下から階段が現れた。

 どうやら下は地下通路になっている様だった。

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(・ω・)ノシ

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[良い点] 2メートルの黒わんこ!(・∀・) もふもふしたい…事件解決後にぜひ…U・x・U
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