捜査の日
ケレバンの街へ向けて出発する日、私達は帝都の屋敷の前に停めた馬車に集まっていた。
今回、ケレバンの街へ向かうメンバーは私とミレイ、ルノア、ミーシャ、アリス、そしてティーダだ。
御者台に座ったミーシャの操車で帝都の門を抜けてコーバット侯爵領を目指して進む。
コーバット侯爵領は帝都が在る皇帝陛下の直轄領の直ぐ隣に位置している。
その為、街道周辺は帝国兵やコーバット侯爵の騎士団が定期的に魔物や野盗を排除している為、比較的安全なルートとなっている。
特に問題も無く、平和に旅を続けていた私達なのだが、3日目の昼過ぎ、私が手綱を握り、隣にアリスを座らせて進んでいると、街道を塞ぐ様に屯する集団に遭遇する事になった。
「ママ、だれかいるよ!」
「大丈夫よ」
遠くに見える集団だが、彼らが掲げる旗が大きくはためいていた。
その旗に描かれた紋章はイブリス教の物。
おそらくイブリス教の聖騎士団だろう。
「げっ⁉︎」
そうアリスに説明していると、背後から顔を出したティーダが妙な声を上げる。
「どうしたのティーダ?」
「うぅ、アレは第4聖騎士団ッスね」
「第4聖騎士団と言えば犯罪の取り締まりを専門にしている聖騎士団よね」
「そ、そうッスね。
あの……エリーさん、私はただのティーダ。
トレートル商会の関係者のティーダって事でお願いするッス」
そう言うと、ティーダはいそいそと髪型を変えて帽子を深めに被ると馬車の角の目立たない位置に身を隠す様に座り込んだ。
「貴女何したのよ?…………自首した方が良いわよ」
「な、何もしてないッスよ!
ち、ちょっと聖騎士団の倉庫からこっそりワインを分けて貰ったり、備蓄の干し肉を摘み食いした事があるだけッス」
「窃盗ですね」
ミレイが半目でティーダにじっとりとした視線を向ける。
「い、いや、ちゃんと謝ったッスよ!
聖騎士団長にめっちゃ怒られたッス。
女神様の像の前で5時間も正座させられたッスよ」
涙を浮かべて震えるティーダ。
どうやらそれ以来聖騎士団が苦手らしい。
「止まれ!」
聖騎士団に馬車を停められた私は、取り敢えず代表として彼らの話を聞く事にする。
「突然済まない。
我々はイブリス教第4聖騎士団第6分隊の者だ。
現在、各国で頻発している誘拐事件について捜査している。協力を願いたい」
若い聖騎士がそう説明し、私達の身元を尋ねた。
「私はトレートル商会の会長エリー・レイスです。この子は養子のアリス。
馬車に居るのが商会員のミレイ、ルノア、奴隷のミーシャ、それから……そっちは友人のティーダよ」
「ん?随分と着込んでいるな」
ティーダは帽子を深く被っていて顔がよく見えない。
実に怪しい。
ティーダは必死で声色を変えて言う。
「す、少し馬車に酔ってしまった様なのですわ〜」
「……そうか、ではこの街道を進む目的を聞いても良いかな?」
「ケレバンの街で商談があって向かっているところよ」
「そうか、一応、馬車を調べさせて貰っても良いだろうか?」
「ええ、どうぞ」
イブリス教の聖騎士団は多くの国での捜査権を持っている。
検問での調査への協力は任意なので、断っても問題は無いが、それをするとやましい事が有りますと言っている様なもの。
痛くも無い腹を探られるのは良い気持ちはしないが、変に目を付けられるのも面白くない。
此処は大人しく捜査に協力するのが無難だろう。
その後、積み荷や馬車を調べた聖騎士から問題なしと判断された。
「手間を取らせたな」
「いえ、事件が解決する事を願っているわ」
「ああ、君たちの旅に女神様の祝福があらん事を」
「ふぅ、何とか切り抜けたッスね!」
「いえ、我々は何処にもやましい事など無いのですから普通にしていれば問題は有りませんでした」
「ビクビクしていたのはティーダだけよ」
「ティーダお姉ちゃんは悪い人なの?」
「ち、違うッスよ〜アリスちゃん!私は聖騎士が苦手なだけッスよぉ〜」
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(・ω・)ノシ