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友愛の日

 

「へ〜、じゃあ最近はずっとアリスちゃんの魔力制御の特訓をしているんッスか?」

「ええ、アリスは物覚えが良いから直ぐに魔力を制御出来る様になったわ」


 喫茶店グリモアールのテラスで新作のチョコレートケーキを食べながら久しぶりに帝都に帰って来たティーダと近況の話をする。


 アリスが2つの魔法適性を持つ事は伏せて、魔力が高い為、制御を教えたと伝えたのだ。


 そのアリスは隣のテーブルでルノアの正面に座り、口の汚れを隣に座るミーシャに拭われていた。


「この歳でキチンと魔力を制御出来るなんて、将来は大魔道士ッスね」

「ふふ、才能が有るのは確かね」

「…………エリーさん、意外と親バカッスね」

「…………」


 私が視線で抗議すると、ティーダはあからさまに話題を逸らす。


「それで、エリーさんはまだ帝都でアリスちゃんの面倒をみるんッスか?」

「そうしたい所だけど、そうもいかないのよ」

「と言うと?」

「仕事よ。アクアシルクの生産が軌道に乗り始めたんだけど、此処で大口の取引先を得る為に少し帝都を離れるつもりなの」

「何処に行くんッスか?」

「ケレバンの街よ」

「ケレバン!」


 ケレバンの街はコーバット侯爵領にある街だ。

 この街は帝国でも特殊な存在で、なんと街1つが巨大な歓楽街となっている。

 統治しているのはコーバット侯爵が派遣している代官……となっているのだが、それは表向きの話だ。

 実際に街を支配しているのは、帝国商業ギルド評議会の評議員の1人、《銀蝶》ヒルデ・カラードだ。


 彼女が経営する娼館や系列店は既にトレートル商会の大きな取引先となっている。


 今回は新しく取り扱う事になるアクアシルクをヒルデの所に売り込むつもりだ。

 その為に、彼女の本拠地であるケレバンの街へ乗り込む事になったのだ。


「け、け、ケレバンの街と言えば!」


 ガタッと椅子を弾き立ち上がったティーダが瞳をギラつかせて顔を寄せる。


「ちょっと、近いわよ」


 私はティーダの顔を押さえて押し返そうとするが、ティーダはビクともしなかった。


「ケレバンの街と言えば!帝国最大の歓楽街ッスよね!

 大きなカジノが有って、大陸中の美酒が集まると言うあの街ッスよね!」

「そ、そうよ」

「…………私も行くッス」


 急に真顔になったティーダが声のトーンを落として呟く様に、しかし力強く宣言した。


「私達は遊びに行くんじゃないわよ」

「良いじゃないッスかぁ〜。

 仕事って言っても少しはゆっくりするんッスよね。

 私も一緒に連れてってくれても良いじゃないッスかぁ〜」


 机を回り込んだティーダは、私の首に抱きついて駄々を捏ねる。


「離れなさいって。別に連れて行くのは良いけど……貴女、一応聖職者でしょ?

 歓楽街に遊びに行って良いの?」

「聖職者は暫くお休みにするッス!

 女神様が私に仰るッスよ『汝、休みなさい』って!」

「…………貴女、いつかバチが当たるわよ」


 こうして数日後、商談の為にケレバンの街へ向かう私達一行にティーダが加わったのだ。




 ◇◆☆◆◇



「いやはや、お聞きしましたよ。フリード殿下。実に災難でしたな」

「ちっ!嫌味でも言いに来たのか?」


 フリードは、目の前に座るでっぷりと太った体を窮屈そうに法衣に詰め込んだ男を睨みつける。


「これは手厳しい。

 私はただ友人たる貴方様を励まそうと足を運んだだけでございますよ」


 頬の贅肉をプルルンと揺らしながら笑う男の名はドンドル。

 イブリス教の大司教であり、巡回司教だ。

 彼の仕事は各地の神殿や聖地を巡り、その地の聖職者を取りまとめ、総本山との橋渡しをする事だ。


「だったら用は済んだだろ。さっさと失せろ」

「はは、どうやら今日は日が悪い様ですな。

 ではコレでお暇させて頂きましょう」


 フリードはそう言って席を立つドンドルを苛立たしげに呼び止める。


「待て、帰る前に今回の分を置いて行け」

「今回の分?はて、フリード殿下は一体何の事を仰っておられるのですかな?」

「ちっ!馬鹿か貴様は!今回の分の金を置いて行けと言っているのだ!」

「お金⁉︎何の事ですかな?」

「くどい!貴様が国境を通る時、口を利いてやっているだろうが!」

「……………フリード殿下、正確には『口を利いてやっていた』ですよ」

「っ⁉︎」

「今の貴方に国境の兵に指示を出す権限はないのでしょう?」

「…………貴様がそう言う態度なら、貴様の馬車の『積み荷』について追及しても構わんのだぞ」

「はっはっは、フリード殿下、貴方はもっと世の理を知るべきですな。

 そんな事をすれば、今まで金を受け取り手引きして来た貴方も責任を追及される事になる。

 貴方が金を受け取っていた証拠はちゃんと取ってありますよ」

「な⁉︎」

「余計な欲を出さず、大人しくしておく事ですな。では失礼」


 フリードを蔑む様な視線を残し、ドンドルは部屋を後にした。


「この生臭坊主が!!!」


 ドンドルが出て行った扉に叩きつけられたティーカップが砕け、甲高い音が響く。


「くそ!何故だ!何故こうなった!エリザベートを排除すれば俺がこの国の頂点に立てる筈じゃなかったのか!!!」


 口煩いエリザベートを廃して、可愛いシルビアと2人、贅沢三昧の生活が待っている筈だった。


 それを父や宰相は些細なミスで懲罰を言い付け、先進的な戦略を国際法がどうたらと訳の分からない事で邪魔をした上、責任を取れと言って来る。


 挙げ句の果てには南大陸に留学し、そのまま向こうの有力者に嫁ぐ筈だった異母妹を呼び戻し、その傀儡になれと言う。


 フリードは怒りで目の前が真っ赤に染まるのを感じる。


「異国の売女の娘の分際で!!」


 フリードの母親である正妃はフリードが幼い頃に流行り病で亡くなっている。

 アデルの母親は第2王妃だ。

 第2王妃ギョクリョウはレキ帝国の帝室の出自で、当然高貴な身なのだが、フリードは南大陸に住むのは野蛮人ばかりだと言う、根も葉もない噂を信じていた。


「くそ!くそ!くそ!国を乗っ取る阿婆擦れ共が!!!」


 フリードは怒りに任せて調度品を薙ぎ倒して行った。


 翌日、アデルに呼び出され、破壊した調度品の賠償をフリードの年間予算から差し引くと告げられ、また荒れる事になるのだが、この時のフリードにはそんな事は考えも付かなかった。

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(・ω・)ノシ

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